112.可能であることと「できる」ことには大きな差があるようですが
双子はじゃれあうように不満をぶつけていたのを中止して、そろって私にこたえくれた。
「そうなんだよなー」
「そうなんだよ!」
異口同音に言うくせに、二人の表情はまるきり逆だ。
レイは残念そうに、ダイアモンド様は嬉しそうに、私に答えた。
「魔石をつくるのに欠かせない鉱物がさぁ、うちでしか採掘できないものがあるんだよ。その原料になる鉱物自体が高価でさ。製造方法を公開しても、他領では製造はままならないみたい」
「つくれないって言っても、ぜんぜん無理ってわけじゃないぜ?実際『塔』や魔術の研究に熱心な領からは、製造に必要な鉱物の注文が相次いでいるしよー。『塔』では製造に成功したんだろ?」
「ええ。わたくしも作りましたよ。われわれも一枚岩ではありませんし、そもそも『塔』の人間は研究第一の人間が多いですからね。研究費が嵩むというのに、誰もが自分の手で魔石をつくりたいと言って、それぞれ別個に実験をしているようです」
「ようですって…。お前もそのひとりだろ」
レイが呆れたようにフィリップ様に言うと、フィリップ様は「ふふふ」と笑い声をもらした。
「まさか『魔石』を自分の手でつくれるなんて思いませんでしたからね。材料費は凄まじく高価でしたが、何年分ものお給料をつぎ込んじゃいましたよ」
フィリップ様はうっとりと夢見るような表情で、架空のお鍋をかき混ぜるようなしぐさをすると、レイが頭を抱えてうめいた。
「あれを個人でつくろうとするとか、いくら金があっても足りなくなるだろうが。実験に成功して『魔石』うっぱらっても回収するにしても、材料費もでねーんじゃねーの。『塔』の研究者たちの執念、怖ぇよ。そりゃ俺は『塔』でも研究を進めてくれりゃ助かるけどよー」
レイは虚空を見つめながら、「研究者には原料の代金を割引するか?」とかぶつぶつ言い始めた。
すると即座にダイアモンド様が、レイの頭をはたく。
「これ以上、外部の人間を優遇するような真似は許さないよ!せめてもうちょい自領の流通が行き届いてからにするよ!!」
「いってーな。わかってるっつーの。急いて事をしそんじるつもりはねーよ。だいたい今の俺に決定権はねぇだろ。俺はもう領主でもねーんだし。考えるくらい考えさせろっつーの」
「あんたが進言したら、エドモンドは考えざるをえないよ。いいから、レイ。あんたはしばらく黙っとけよ。エドモンドの施策に口は出さない。そう決めたんだろ?」
「……わーってるって」
ダイアモンド様は苛立ったようにキツい口調で言う。
レイはバツが悪そうな表情であいまいに笑い、「悪い」と言う。
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