110.なぜだかすっごく怖いんですが
天然の魔石はごく貴重なものだから、『塔』が供給する「魔力」の需要を脅かせることはなかっただろう。
だけど、人工のものなら?
今は技術が拙くて、つくれる量も少なかったり、ある程度高価かもしれない。
だけど作り方がわかっているなら、そのあとの進化は加速度的になる。
誰もが可能だと思っていなかった技術でも、ひとたび衆目の前に歴然と「可能」として結果がだされた場合、その技術はあっという間にあちこちで萌芽し、進化していくものだ。
それが人々にとって必要な技術であれば、確実に。
いますぐではなくても、近い未来に「魔石」は「魔力」にとって代わるかもしれない。
それは『塔』にとって、看過できない問題のはずだ。
「人工の魔石の作り方は、誰が知っているんですか?」
頭の中が疑問でいっぱいになる。
なんだかすごくこわくて、かたっぱしから現状を確かめずにはいられない。
昨日こちらの世界に来て魔獣に対峙した時よりこわいなんて、へんだよね。
いまここでなされているのは、ただの議論。
それも早々に元の世界に戻る私には、関係ない議論だ。
なのになぜか、体の芯から恐怖が湧き上がってくる。
なんでかなぁ。
魔獣にはかなわないとあきらめることしかできないけど、こっちの問題はへたに想像がつくぶんこわいのかな。
とりつかれたように尋ねると、フィリップ様のとなりからレイが口をはさんだ。
「うちの領の製造機関で働く連中なら、皆がなんでも知っているぜー?あとある程度は、情報公開もしているしな」
「そう、じゃぁ魔石をつくらせないために誰かが殺されるなんてことはないのね」
「まーな。それにかなりの情報を公開してるからよー、働いているやつらに手出しをして、情報を探るなんて真似をされることもねぇよ」
「ほんのちょっとのコツみたいなの以外、ぜんぶ公開してるんだよ。信じられる!?せっかくの魔石の製造方法なんだから、こっちも『塔』みたく独占しちゃえばかなりの利益になるのにね!」
レイが胸をはると、ダイアモンド様は顔をしかめて言う。
レイはダイアモンド様の頭を指でこづいて、
「だーかーら。そういう発想が嫌なんだよ!『魔石』が一般家庭でも流通できれば、民の生活も一気にラクになるだろ?でも俺たちだけじゃ、そこまでの製造はできないだろーが!」
そう言っておおげさに胸を張るレイのしぐさは、どこかお芝居めいている。
その証拠のように、ダイアモンド様はむくれながらも笑う。
「そりゃそうだけどさ。だからってなんでもかんでも教えちゃうのはどうかと思うんだよね」
「けどよー。実際、情報公開しても、困ったことなんて起きてないだろ?」
レイが諭すように言うと、ダイアモンド様もしぶしぶうなずいた。
「まぁね、今のところは、ね。結局、ほかのとこじゃつくれないみたいだし」
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