108.難しい話は苦手ですが
「レイモンド様の行いを、わたくしは誇りに思いますよ。自領の民のため、また国のため、全力で考え、実行された政策です。おかげでこの領の民の生活はもちろん、国全体としても治安はよくなり、飢えや病の防止も向上しています」
フィリップ様は言葉通りレイを誇らしげに見る。
うーん、そんな表情を見ていると、フィリップ様がおじいちゃんポジションだというのも納得できちゃう。
外見的にはフィリップ様のほうがレイより年下に見えるのに、その眼差しははるかに年上の人間が、成長しつつある若者を見守る目だ。
ダイアモンド様といらっしゃるときは、またちょっと雰囲気が違う気がするんだけどな。
それってダイアモンド様がフィリップ様のことを好きだからなのかな。
人と人との関係って面白いなと思っていると、レイは照れたような、けれどバツが悪そうに笑う。
「そうだといいんだが」
「あ。それってもしかして、緊急用の連絡機のことですか?」
街で見かけた非常用公衆電話みたいなやつを思い出す。
あれを見て、私はこの身分格差が歴然とあるこの世界でも、ふつうの人も大切にされているってわかって安堵した。
だけど予算とか利害関係で、導入の時にはもめたってレイが言ってたっけ。
フィリップ様に尋ねると、「すこし長くなりますが」と前置きして、話してくださった。
「そうですね、あれもレイモンド様が行われた改革ののひとつです。他にもレイモンド様は、民の生活をより良くするため、様々な方策をとり、研究もされていました。もっとも大きな成果が、『魔石』の人工生産です」
「魔石…?」
「魔石は、魔力と同じような効力を持つ石です」
フィリップ様は端的に教えてくださるけど、私にはなにがなにやら。
昨日も魔力や魔石について、レイたちが話しているのは聞いていたけど、ぼんやりと聞いていたから覚えてなかったりして。
「魔石のことは、昨日すこしレイに聞きましたけど…。人工生産というのは、そんなにすごいことなんですか?」
「異世界の方にはその価値はわかりにくいかもしれませんね。……そうですね、この世界で日常的に使用されている道具の多くは、魔力で動いています。魔力とわたくしたちの生活は、切っても切れないもの。これを基本として覚えておいてください」
フィリップ様はどうやら本格的に説明してくださるようだ。
難しそうな話だけど、レイに関係が深い話みたいだから、がんばって訊かなくちゃだな。
「はい」
私はともすればあちこちに飛びそうになる意識を集中させて、うなずいた。
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