106.継続は力なりとは申しますが
にしても、フィリップ様って500歳なのかぁ。
500年前というと、1515年?
日本の歴史に照らし合わせると、室町時代とか戦国時代くらいか。
…わーぉ。そのへんでぱっと思い浮かぶ有名人って織田信長なんですけど、桶狭間の戦いが確か1560年かそこらのはず。
あの時信長はまだ若かったはずだから、たぶん織田信長、500年前まだ生まれてないわ。
フィリップ様、信長公よりご年配なんですねー。
……目の前のつやぷり肌の少年が歴史上の人物より年上とか、実感わかないわ。
なんか一気にフィリップ様がどういう方なのかわからなくなる。
どこか底が知れない雰囲気があるとは思ってたけど、予想を軽く上回っている。
「こちらの世界の歴史は存じませんが、フィリップ様は様々な歴史的事件を体感なさってきたのでしょうね」
500年。
地球の歴史だと、どこの国にいても、生き延びただけで尊敬するほどいろんなことがあったはず。
それはおそらくこちらの世界でも同じじゃないだろうか。
畏敬の念を込めていうと、ダイアモンド様もうなずき、
「うん、そうなんだよね。フィー様はいつもにこにこされているから、そんな感じしないんだけど、たぶん想像を絶するような陰惨なものも見られてこられたと思うよ。昔は戦争の時には民衆を奴隷としてさらったり、村や町を襲ったりも繰り返されていたしね」
好きな人のことだからというだけではないのだろう。
ダイアモンド様はこの国で昔あった悲しむべき出来事を思い、しょんぼりと言う。
そのまま物思いにふけり黙ってしまわれたけど、私もなにも言えなかった。
この世界の身分制度ですら、私にはなじまないっていうのに、奴隷か…。
地球でもあったことだし、知識はないわけじゃない。
けど、実際にその時間軸を生きてきた人にかける言葉なんて、思いつかない。
私は重すぎる気分をごまかすために、オレンジジュースのおかわりを飲んだ。
ダイアモンド様もしばらくすると、ぎこちないながらも笑顔を見せた。
「ごめんね。こういう話をしていると、つい考えちゃって。フィー様はその頃のご自分の生活なんかは、あまり話してくださらないから知らないんだけど」
「そうなんですか…」
「ただフィリップ様はそのころからずっと、魔術を中心にこの世界のことを調べていらしたんだって。だから今では、フィー様は国でいちばんの賢者なんだよ」
「500年近くも研究に生きていらしたんですね」
私は幼げなフィリップ様の顔を見ながら、瞠目した。
正直、自分だと500歳まで生きても国いちばんの賢者になんかなれる気がしない。
だってさ、人の5倍生きれば5倍賢くなるってわけじゃないじゃない。
実際30歳ですけど、ちょっと頭のいい中学生より頭悪いですし。
へたすりゃ頭のいい小学生よりお馬鹿ですし。
「それだけの長い間、おごりもせず研究に打ち込んでいらしたなんてすごいですね」
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