104.彼と彼が仲良しなのは把握しましたが
レイがこぼすと、フィリップ様はくすくすと笑った。
「ほんと久しぶりに見ましたよ、君の素の感情たっぷりの表情。あんなにかわいがっていたのに、当主になったとたん、わたくしにまで対外用の表情しか見せてくれなくなったから、正直、寂しかったんですよ?」
「つってもよー…。俺なんかが親しくしていたら、フィー様だって立場的に困るだろ?『塔』の連中からしてみれば、俺なんてサイテー野郎だろうし」
「馬鹿ですね、そんなことを気にしていたんですか?……まぁ君のことだから、そんなことだろうと思っていましたがね。確かに『塔』では君の評判は良くないですが、わたくしは『塔』でも特別な存在ですから、そんな心配など無用ですよ」
「俺のせいで誰かに迷惑をかけるのなんて、嫌なんだよ」
「おやおや」
フィリップ様は目を細めて、またレイの頭を撫でた。
レイはフィリップ様の手をつかみ、ばつが悪そうな表情で言う。
「……おい、ストップ。さっきはスルーしたけどよ、いくらなんでも、そこまで子ども扱いするのはやめてくれ」
「すみません。でも、嬉しくて」
「あぁ?」
「君がわたくしをたよってくれたのが、嬉しいんですよ。誰にも頼らないなんて肩肘はるのが必要な時もありますが、君のそんな時期はもう終わっているでしょう?今の君に必要なのは、いろんな人を観て、誰にどこまで頼るか考えることだと思いますよ。美咲さんのことは、よいきっかけになったんでしょう?」
フィリップ様はレイの顔を見上げながら、ふふっと意味ありげに笑って言う。
レイはしばし頭に手をあてて考え、やがて肩を落として、ひとりごちた。
「フィー様の、そのなんでもお見通しみたいな態度ってムカつくんだぜー」
「おやおや、すみません」
フィリップ様はまだくすくす笑いながら謝罪すると、レイも気まずげに笑った。
そんな二人のやりとりを面白くなさそうに見ていらしたダイアモンド様が、私に向かってため息をついた。
「美咲さん、ごめん。レイがまた暴走して」
「え?いいえ、そんな」
「あいつほんと説明しないから、わけわかんないでしょ?えっとね、フィー様は、さっきレイが説明したとおり、この国での魔術関係の研究機関『塔』のえらい人なの。『塔』の成り立ちはけっこう特殊で、説明するとながくなるけど、とりあえずかなり権力のある機関だってことだけ覚えておいて」
「あ、はい」
「私やレイは王族直属の聖騎士だけど、聖騎士の仕事ってほとんどは王族の関係じゃないんだ。国として重要な案件で、聖騎士の保護が必要だとされるところに送り込まれる…王族の私兵の一種みたいなものなの。で、私はいま、フィー様の護衛をしている。フィー様って、『塔』の中でもすっごく偉い人なの」
「……そうみたいですね」
私はレイと和んでいるフィリップ様の顔を見ながら、うなずいた。
私としては、見た目で印象をはかる世界に昨日までいたので、フィリップ様の見た目で国レベルで偉い人っていわれているのは、なんか違和感がある。
こちらの世界の常識になれなくちゃなぁと思うけど、これはなかなか慣れなさそうだわ。
読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマも嬉しいです。




