執事が語る事実、綿毛のような命
暫くは抵抗していた。
けれど、鎖は解けるはずもなく俺は力を抜いた。
「落ち着きましたか・・・。それでは、説明を続けさせていただきます。」
落ち着いて話す戒さんは、どこか冷たかった。
当たり前といえば、当たり前かもしれない。
それでも、違和感を感じる。
「それでは、次にお嬢さまの話をしましょうか。
先程お見えになったのは、我らが蓮麻家の次期当主、蓮麻零欄様でございます。
零欄様は、他人には到底理解する事のできない深い事情があるために、あのような姿でいらっしゃいます。」
そう、あのもさもさが・・・。
いやいや、
「あれは、単なる引きこもりだろ!」
力のこもったらツッコミに戒さんは、苦笑した。
「・・・実は、私も深くは理解してはいないのです。お嬢様は、五年前から一切の外出もせず、部屋から出ようともしないのです。
何か、深い事情をお持ちだとは思うのですが・・・。」
その態度に俺は憤慨した。
五年もの間、何故知ろうともしなかった!
「お尋ねした執事達は、すべてクビにされてしまいましたから。」
先手を打つように戒さんは、言った。
「権力の悪用ですか。」
俺は、そのお嬢様とやらの顔を思い浮かべた。
髪でほとんど目視はできなかったため、どのような人かは想像できていない。
しかし、これだけ聞けば性格は悪そうだ。
「この世界は、あなたの世界と違うかはわかりませんが、命が軽視されています。
魔術のなかには、人命さえも左右できる噂を聞きます。
そんなこともあってか、人は奴隷に売られる事もありますし、執事の代わりはいくらでもいますから。」
そう、彼は言う。
諦めである言葉、
自信のある思い、
俺は二つを感じ取れた。
戒さんは、執事長であることに誇りを持ちながら、絶対の自信と決意がある。
それは、この世界の軽い命の中で、かなりの重さを持っていると自覚し、断言していた。