執事が語る事実、妄想たる世界
互いに向き合って座り、自己紹介を終えてもお茶を濁してしまう。
唐突過ぎる現状になにを聞けばいいかわからなかった。
当然戒さんも察してくれたらしく、説明を始めてくれた。
「まずは、この世界について・・・いや、先にあなたの世界について説明しましょう。
長くはなりますが、ある程度かいつまんで説明させていただきます。
あなたの世界は、あなたの足下にあった本です。」
本・・・?
かいつまんで説明し過ぎな気もするが静かにはなしを聞くことにした。
「えー、この地域には魔術を用いて自らの想像した世界を一定の空間として形成するならわしがあります。
そして、破れて飛んでいってしまったのが、あなたの世界である本だったわけです。」
・・・。
まったくといっていいほど分からなかった。
次の言葉で理解したとき、俺はすべてを後悔する。
「つまり、あなたはお嬢様が描き作り出した本の登場人物。
物理的にいうなら、紙上のインクです。」
戒さんは、軽く言い放った。
目を閉じるなど、少しの気にかけることもなく言い放った。
「どういうことだよ!!」
俺は、戒さんにつかみかかろうとした。
しかし、またも紫の鎖に縛られる。
無我夢中にもがいても、解けることはない。
腕は軋み、身体は鎖を解こうとした力により、かえって肉にめり込んでいる。
「インクってなんだよ!おい!俺らの世界が本ってなんだよ!なんなんだよ!
友達と馬鹿やったことも!
親の死看取って泣きまくったことも!
普通に生きてた現実も!
全部!全部!
物語でしかないってのかよ!
軽く、ペン先で修正できるような!
そんなことって、ありかよ!!
答えろ!
嘘なんだろ!
なあ、嘘なんだろ!
嘘であってくれよ!!」
ただ、喚いた。
泣き喚いた。
まったく動じない戒さんと、
ぶれて滲む思い出、
思い出せば出すほどに、
薄れていってしまう気がした。
遠く、遠く、消えてしまいそうだった。
少しずつ、鼓動が高まり、
少しずつ、息が荒げていく、
そう、これが現実。