花の嵐に嗚咽を紛らせ、春が泣く。
ショーウィンドウ越しに、オルゴールを見る。
適度にデフォルメされた銀の兎が可愛らしい。
そこを通る時は、いつもその兎を見る様にしていた。
サキコが欲しいと言っていたから。
迷って、でも今日も結局店の前を離れる。そして、ふと花びらに誘われて、並木をショーウィンドウ越しに見て。
見付けた恋人達の姿に、僕は立ち尽くす。
幸せそうに笑う恋人達。
サキコが居た。親友の大地と、手を繋いで。
兎を見てた時、指から繋いだ手をギュッと握っても、彼女は握り返してはくれなかった。
その後笑い合った喫茶店でも、上の空で。
――ごめん。ごめんなさい。
そう別れ話を切り出される前に、僕はもう知ってた。
謝らなくていいよ。何となく、ふと遠い目をする君の視線の先に誰かが居るって知ってたんだ。
大地の話をすると、君が苦しそうにする事にも気付いてた。
でも、離れたくなくて、僕は見ないふりをしてたんだ。
ずるくてごめん。苦しかったよな。
でも、やっと大地に言えたんだな。
良かったな。
大地、サキコを選んでくれたんだな。
良かったよ。
僕に遠慮なんかしたら許さないところだった。
親友なんだから、対等でなきゃ、許さない。
……だから、あの日殴った事は謝らないからな。
僕に悪いとか言うお前が悪い。僕はフられたんだぞ。遠慮なんかするな。
幸せになれよ。
幸せに。
……どうか。幸せに。
僕はこの通りを行く時、立ち止まって兎にいつも問いかけていた。恋はいつ終わるんだろう?
やっと答えが見付かった。
今だ。
楽しそうな恋人達を見て、やっと僕の恋は終わった。
もうこの兎の前に立つのは止めよう。
僕は恋人達とは逆の方を向いて歩き出す。
ザアッと風が吹き抜ける。
涙雨の様だった。
僕の代わりに春が泣く。嵐の様に。
ざくりと刃を立てて、僕は心を切り裂いた。
後から、後から。
はらはら、はらはらと。
傷口からはらはらと零れたのは桜の花びらだった。