きーちゃんはマジなんです。 -蛇足-
長い間の音信不通が嘘のように、前みたいに俺の部屋にどうどうと入ってきたきーちゃんは、ちょっとは遠慮しろよといいたくなるほど俺の買ったグラビアを堂々と見ながら告げた。
「ハスって巨乳が好きなんだと思ってた」
「あ、俺もそう思ってた」
黙殺されるはずの発言は、自分でも驚くほどあっさり肯定した。
きーちゃんはグラビアから顔を上げて真面目な顔で頷いた。
「そーだよねぇ、初恋の黛さんとか、小5のときの担任の榎木先生とか、初カノの田中さんとか」
「いやミチルはそんなでも」
といいかけて、いまちょっと気になってるきーちゃんの前でそんなことを素直に言う愚かを遅ればせながら悟り、口を閉じると共にipadに視線を落とす。
「きーちゃん、明日台風がくるって。路線が弱いと困るよなー」
無難中の無難といわれる天気の話題に移そうとすると、きーちゃんはふふふ、と口を押さえて笑った。
「別に、気にしてないよ」
それはそれでどうなんだ。
ちょっとは嫉妬してくれてもいいんじゃないの。
と自分勝手な不満を抱きかけると、きーちゃんは見定めるような視線で俺を見る。
「ハスは、巨乳じゃなかったんだもんね」
…ipad落とすと思った。危ない危ない。
きーちゃんはスレンダーな体を折り曲げて、俺の鼻先まで顔を寄せる。
そしてそのまま視線を絡ませてくるが、それ以上自分ではなにもしない。
ええ、白旗をあげたのは俺のほうがちょっと早かったんで。
敗者は敗者らしく、よっと身を起こすときーちゃんは嬉しそうに俺の背中に両手を回した。