表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

狂っている

作者: 植崎健太郎

母親の奇声で目が覚める。

階段を降りると姉が廊下でラジコンカーを走らせていた。

台所に行くと父親が集めているゴキブリをニタニタしながら眺めていた。


いつからこうなったのだろう。

今から約半年前、テレビ局で電波ジャックがあったらしい。

主犯の男は不気味な『音』と『映像』を全国に流したらしい。

その時テレビを見ていた人は精神に異常をきたしたのであった。


電波ジャックがあったのはお正月。

全てのテレビ局から電波が発信された。

お正月というのも重なったせいで国民の70%は精神異常者になっていた。


僕の家族は僕以外全滅だった。

食料などは国やアメリカからの援助があって困りはしない。

こんな時代でも学校はちゃんとやっている。

国から支給された魚の缶詰めとカンパンを食べ、出かけると隣のおばさんが玄関の前でブツブツと訳の分からないことを言っていた。

今日もあちこちにおかしな人がいる。

動かない犬に吠えている人間。

裸で縄跳びを体に巻いて走っている人。

電柱を愛しそうに抱きしめている人。

もう見慣れた光景だ。


学校に着くと授業は始まっていた。

少し遅刻したようだ。

授業の内容は算数の足し算引き算。

ちなみに僕は中学1年、生徒数はわずか13人だ。


あの事件以来、テレビを見ていなかった人間も周りの影響か次第に少しずつおかしくなっているのだ。


「3+5はいくつでしょう?」

「6です」

などと中学生では有り得ない授業が繰り広げられている。


退屈な授業だ。

退屈な日々だ。

退屈な人生だ。


算数が終わると学校が終了した。

まだ午前10時だ。

今日は給食は出なかった。


家に帰ると父がゴキブリを食べている。

寿命は長くないと思った。

姉のラジコンが僕の足に激突してきた。

姉は泣きながら僕を叩いてきた。

僕は姉を突き飛ばし自分の部屋に閉じこもった。

また母親の奇声が聞こえる。


僕はヘッドホンをしながらやり飽きたゲームのスイッチを入れた。


どれくらい時間がたったのだろう?

外は真っ暗になっていた。

母親の奇声は聞こえない。

階段を降りると先ほど突き飛ばした姉が同じ場所で頭から血を流し倒れている。

台所に行くと父親が倒れていた。

口の中には数え切れないほどの小さなゴキブリがワラワラとうごめいている。

僕はソーセージの缶詰めとカンパンを食べて、自分の部屋に行き、布団に入った。


僕の目から大粒の涙が溢れてきた。

家族が死んだからじゃない。

家族が死んで悲しいと思ってしまったのだ。

僕はまだ狂っていないのだと絶望した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 淡々としていたため読みやすかった分、怖さが強かったです。 電磁波の影響や環境汚染も いつの日か この作品の様な風景を生んでしまうのかも…と怖くなりました。 また楽しみにしています。頑張って下…
2007/07/04 05:47 宮薗 きりと
[一言] 淡々とした文章が恐怖感を煽っています。 そして、最後の一言には哀愁さえ感じました。 良かったです。
[一言] 恐い…。 文章のテンポのよさ、飾らない終わり方とてもよいと思います。簡潔さがより、恐さを引き立てていると思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ