第2話:万能の果て、半径5ミリの螺旋
我は聖剣ブランタンバラン。
先日、栄えある真の名のほかに「ブタバラくん」という屈辱的な通称を付けられてしまったが、我の誇りがいささかも傷つくことはない。いつか必ず、我が主キリヤ様がこの世界で魔王に匹敵する強大な敵と対峙した時、我の真価が発揮されるはずだからだ。
さて、今日のキリヤ様は朝から段ボール箱と格闘している。
通信販売とやらで買った「組み立て式カラーボックス(三段)」という代物らしい。
「くっそ……説明書が分かりにくい。それに、なんだよこのネジの数……」
額に汗を浮かべ、キリヤ様は舌打ちをした。どうやら、手持ちの百円均一の工具ではサイズが合わず、ネジ山が潰れかけているようだ。
我が主が窮地に立たされている!
我は壁際から、力強く念話で語りかけた。
「キリヤ様! そのような木屑の寄せ集めに煩わされる必要はございません!」
「おお、ブランタンバラン。なんかいい手あるか?」
「お任せを! 我が刃に宿りし『森羅万象の理』を解放すれば、裏山の樹木を瞬時に伐採・製材し、国宝級の紫檀で王属特製の書架を錬成することが可能です! さあ、我を空高く掲げ、詠唱を!」
「いや、この狭いアパートのどこにそんな巨大な本棚置くんだよ。床抜けるわ」
「なれば! 異空間収納庫をこの部屋に直結させましょう! 我が刃で次元の壁を切り裂き――」
「退去時に敷金返ってこなくなるからやめて。次元の裂け目とか原状回復どうすんだよ」
キリヤ様は深いため息をつき、またしても我の圧倒的な提案を却下した。そして、何かを諦めたように我をじっと見つめ、言った。
「なあ。お前、どんな形にもなれるんだよな?」
「いかにも! 大剣、双剣、槍、斧、いかなる武具にも姿を変えることが……」
「よし。じゃあ、長さは15センチ。持ち手は俺の手にフィットする太さに。で、先端を『直径5ミリの十字型』に変形してくれ」
「……は? じゅうじがた?」
言われるがままに姿を変えると、キリヤ様は我の柄をがっしりと握りしめた。
そして、先端の十字部分を、カラーボックスの小さなネジの溝にカチリとはめ込んだ。
「おお! すげえ! サイズぴったりだ! しかも絶対ネジ山が潰れない!」
「キ、キリヤ様!? なぜ我をぐるぐると回すのですか!? 我は神に鍛えられし聖――」
「いくぞ! ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
キュルキュルキュルキュルッ!!
我が主の鍛え上げられた豪腕によって、我は凄まじい速度で回転させられた。
かつて魔竜の鱗を貫いた神聖なる刃の先端が、M4サイズのタッピングネジをただひたすらにねじ込んでいく。目が回る。
数分後、完璧な三段カラーボックスが完成した。
「ふぅ……助かった。さすがお前だ。切れ味だけじゃなくて、ドライバーとしても最高だな。これならどんな家具も組み立て放題だ」
キリヤ様は満足げにカラーボックスを撫でた後、目を回してぐったりしている我を壁に立てかけた。
「ありがとうな、ブタバラくん。お前、マジで最高の『マルチツール』だよ」
「ま、まるちつーる……?」
大勇者の最高の相棒から、台所の包丁を経て、ついに工具箱のレギュラーへ。
圧倒的な汎用性が仇となり、聖剣ブランタンバランはまたしても深く落ち込んだ。
しかし、自分の手で(回されて)組み上がった本棚に、キリヤ様が大切そうに漫画の単行本を並べていくのを見て、ほんの少しだけ誇らしい気持ちになったのは、絶対に秘密である。




