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ドアマットヒロインにすらなれないアタシは、うつくしい壺になりたかった。  作者: マンムート


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6 人生を交換してあげたい。


 ここで止めたら。


 少なくとも今だけは、バカ1号2号3号大成功になってしまう!


 うたかたの夢だろうけど。


 バカ1号は伯爵家当主、バカ2号は伯爵夫人、そしてアタシは伯爵令嬢になってしまう!



 でも、それで何が悪いの?


 アタシの中の、どこかがささやく。


 どうせ、いつ死ぬか、殺されるか、見捨てられるかわからない人生。


 なら、どこで失敗しても同じじゃない。


 なら死ぬ前に、ちょっとだけ人並み以上の生活を送らせてもらったって。


 あの人だって綺麗になったあなたを見たら、大切にしてくれるかもしれない。


 あの青空の壺と同じくらいに――



 視界の隅に、お嬢様の表情が写った。


 唇の端が笑いが、浮かんでいた。


 あの、笑いだ。


 一瞬で、ひらめいた笑いは消え。


 お嬢様はしおらしく懇願する口調で


「みなさん、この家の当主としてお願いします」 


 なぜだかは判らない。お嬢様は、アタシらがこの流れに身を任せるのを望んでいる。


 このまま乗ってしまえ、という心の声がする。


 ああ、でも、やっぱりこの流れはキモイ。


 お嬢様は言葉を続ける。


「この人たちの――」


 言うとおりにして、なんて言わせるか!


「あのぉー、なんでおじょうさまでぇごとうしゅでもあるあなたがぁ我慢しなくちゃならないんでしょうかぁ?」


「え」


「ここでぇ、このひとたちを突き出しておけばぁ、我慢する必要なんてないんじゃぁないのかなぁ? なんでそうしないのか、あたしにはわっかんなーい」


 奉公人たちの幾人かがうなずく。そりゃそうだ。


「! それは」


「えー、もしかしてぇ、我慢したいんですかぁ? この人達をここで放し飼いにするとぉ、お部屋をとりあげられたりー、宝石とかとりあげられたりー、ざんぱん食べさせられたりー、下働きさせられたりーひどい目にあわされると思うんですけどー」


 ざまぁ劇ではそんな展開になるらしい。知らんけど。


「そ、それくらいは我慢のうち――」


 あたしは奉公人さんたちの方を見て、


「みなさんもぉ、ごとうしゅさまのおことばだからって、ここでなんとなーく流されてみとめちゃったら、あとでクビにされたりー、ごとうしゅをひどいめにあわせた片棒かついだりでぇ、困ったことになるかもしれませんよぉ。みなさんそれでいーんですかぁ?」


 固まっていた奉公人さんたちも『言われてみれば……』という顔をしてる。


 よしよし。


「で、ですがそれでも」


 とお嬢様がなにか言おうとするので、あたしは使える中で、いちばん無邪気な笑顔を浮かべて、


「えっとー、もしかしてぇ~。おじょうさまはぁ我慢したいんですかぁ? まさか、まさか、いじめられたいとかぁ~? うっそー。かんがえらんなーい。ありえなーい」


「!」



 なに驚いてんのよ。


 まさか図星!?



 うわー。ここにバカ3号ならぬ、いじめられたいヘンタイがいた!


 奉公人たちも、マジかよ。うちのお嬢さんは頭おかしい、みたいな顔してる。



 凍り付いたような沈黙の中、ヘンタイお嬢様のつぶやきが妙に大きく聞こえた。


「だ、だってそうしないとジョージ王子が来てくれない……」


 うわ。こいつ、あたまおかしい! バカじゃなくてキョージンだ!


 ジョージ王子って、確か第二王子だよね?


 ドアマットヒロインものの物語を真に受けてる! アタマがお気の毒なひとだ!


 アタシは、こてり、と首をかしげながら、執事さんと奉公人さんたちに、最後のダメ押し。


「あのぉ、いいんですかぁ? あとでご当主さまにぃ無礼を働いたひとたちをつきださなかったってぇ知られたら、みなさんの立場ってわるくならないんですかぁ?」


 奉公人さんたちは、ハッとした顔で動きを再開した。


 ああ、よかった。



 暴れるバカ1号と2号は、引っ立てられていく。


 2号があたしを、殺意がこもった目でにらみつけた。


「あんた母親を売るの!」


 アタシは、こてっと首をかしげて、ごくごく無邪気な声で。


「えー、だって、ママだってあたしを男たちに売ったじゃん。あたしの初めてっていくらだったの?」



 実は知ってる。


 その客がいきなり部屋に入って来て、アタシを殴りつけてから、無理やり押し倒しながら言ったんだよ。


 アタシの初めては金貨1枚だったって。


 あと借金の証文一枚。借金も含めると、娼館での初物相場よりちょっと高い。


 だけど、あの男にとっては安い買い物だったと思うよ。


 アタシさ、あの頃は今ほどやつれてなくてもっと美人だったし。


 肌に傷なんかひとつもなくて、まだどこか夢見てたし、今おもえば、ほんとうに無邪気だったし。


 そんな美少女を、一晩じゅう好き放題にできたわけだしね。


 それからは毎日毎日、何人も客をとらされて、その半分以上はママというほとんど他人に抜かれてさ。


 実のところ、そんなもんだろうと思うようになったから、憎んでるわけじゃない。



 ただ、なんとも思わなくなっただけ。



「そ、それは、わ、わたしはアンタの母親よ! アンタのものはわたしのものなの!」


 よくある話だよね。


 うん。別にむかついたりしないよ。


 娼館ではそういう女、めずらしくないし。


「そっかー。じゃあ、これからは、あたしのものはあたしのものにするねぇ。さいごにいい教えをありがとう。ママ愛してるぅ~」



 1号2号はひきずられていき、視界から消えた。


 今度こそ、お嬢様は余計なことを言わなかった。


 さっき奉公人さんが呼びに行った親戚の人達が、聞いてるからだろう。



 はぁ……終わった。


 お嬢さんが恨みがましそうな目で見てるけど、そんなにいじめられたかったのかなぁ?


 ヘンタイってこわい!



 お嬢様が、アタシを睨みつけたまま告げた。


「この汚らしい娘も連れて行きなさい! けがらわしい娼婦を!」


「しかし。この方のおかげで――」


「あの女の娘よ。共犯だわ。お母様殺しにだって関わってるに決まってるわ! 地下室にいれておきなさい! どんなに手荒に扱っても許します!」


 その声はヒステリックだった。


 執事さんは溜息をつくと、数人残った奉公人達に命じて、アタシを連行させた。


 最後、ちらりと振り返ると、お嬢様はまだ、アタシを睨んでいた。



 きれいに整えられたブロンドの髪。


 傷ひとつないつやつやの肌。


 ちゃんとした生地の上品なドレス。


 何不自由なく育てられました、とその全身が語っている。



 アタシにないものばかりで出来てるお嬢様。



 そんなにいじめられたいのなら、人生を交換して欲しいよ。



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