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ドアマットヒロインにすらなれないアタシは、うつくしい壺になりたかった。  作者: マンムート


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5 うたかたの夢にさようなら……させてもらえない!


 もしかして、このお嬢様、見た目気が弱そうじゃなくて、中身も気が弱い?


 だって、あの目。


 私ってこういう運命なんですね……受け入れるしかないです……みたいな目。


 じゃあ、さっきの笑いはなに?


 あの楽しそうな笑みは。


 もしかして。


 このお嬢様、アタシの常連のひとり、三文劇作家が言ってた、ざまぁ劇のドアマットヒロイン気取り!?


 あの作家、アタシにそういう女の演技させて、いたぶってくるのが好きなんだよね。


 いつもいつも。


「お前は虫けらだ」「生かしてやってるだけありがたく思え」「オレのいう事に従う以外するな」「口答えするな」「こんなこともできないのか!」


 とかとか、延々と罵倒してきて、乱暴に扱われる。


 それに対してアタシも、


「ご、ごめんなさい」「わたしさえ我慢すれば」「ぜんぶやっておきます」「はい、あなた様のいうことが正しいです」「すいません」「わたしが悪いんです」


 とか答えないと本気で殴られる。


 あー思い出すだけで反吐が出そう。


 あ。でも。


 ほんとうにそういうことなら。


 このお嬢様の希望(?)にそって、『ドアマットヒロインをさせる義妹』を演じさえすれば。


 数年のあいだだけでも、安楽で贅沢な生活を送れるかもしれない。


 毎日毎日、男に体を開かれてもてあそばれて、稼ぎはママにむしりとられる生活から逃れられる。


 どうせこれを逃れたって、病気か、殺されるか、追い出されて野垂れ死になんだ。


 それならいっそ。このお嬢様の悪趣味に乗って――



「ふんす!」


 バカ1オッサンが、鼻を鳴らしたんで我に返った。


「以後、この子を妹として扱いなさい。これは当主としての命令だ」


「はい……」


 お嬢様はしおらしくうなずくと、かたわらに立つ執事さんとおぼしきロマンスグレーの老人に


「エドモンド、このかたたちに部屋を」


「エドモンド、一番いい部屋を用意するんだぞ。ああ。そうだ。その娘の部屋とあの女の部屋がいちばんいい部屋だったな。新しい奥方には、あの女の部屋を。かわいい妹には、こいつの部屋を使わせろ」


「そうよ! わたしらはさんざん苦労して来たんですもの! 今までちやほやされていた分、わたしたちに譲るべきよ! 部屋がないなら屋根裏部屋とかがいいんじゃない!」


「……わかりました。エドモンド、お母様の部屋をこのご婦人に、そして、わたくしの部屋をこの御令嬢に。わたくしは屋根裏へ」


「でっ、ですがお嬢様……」


 執事さんは、お嬢様をチラッと見たが、彼女は弱弱しくうなずくばかり。



 どくん、と鼓動が跳ねる。


 これなら。


 うまくいってしまうかも。


 バカ1号とバカ2号には、計略もへったくれもないけれど。


 お嬢様がうまくやってくれている。


 この流れのままに流されれば、束の間、たった数年でも、いいくらしが。


 こんな脱がされるためだけにある安いドレスじゃなくて本当のドレスを着て。


 ちゃんと休めて、おいしいものも食べられて。


 昼も夜も男にもてあそばれて、生傷が絶えないくらしともおさらばで。


 ちゃんと休めて、おいしいものも食べられて。


 残り湯じゃなくてアタシのために温められたお風呂にも入れて。


 そうすれば、アタシは、あの人が言っていたように美しくなれるかも……。



『玄関ホールに飾られてるモノを見れば、その家のことはいろいろと判るんだよ』


 不意に、あの人の言葉が頭に浮かんだ。



 アタシはぎゅっと目をつぶって、そっと息を吐いた。


 落ち着け、バカ2号のせいで狂った予定を修正するだけ!


 はかない夢は終らせる。


 昨日、一生懸命考えた通りにすればいい。そうしなくちゃ。



 アタシは執事さんに話しかけた。


「あのぉ~。このおやしきのおじょうさまって、このおじょうさまだけなんですかぁ?」 


「え、は、はい」


 ぼっちゃんがいないのは判っているので訊かない。


 アタシは無邪気をよそおって、オッサンを指さして


「えっと、この人は、この屋敷に住んでたいちぞくのひとなんですかぁ? それとも、おムコさんなんですかぁ? おムコさんっぽいんですけどぉ」


「え、あ、はい」


 あたしは、ぱん、と手を叩いて、『なるほどーわかりました』みたいな感じで、


「うーんと、ならぁ、このひとがここのごとうしゅですよねぇ?」


 お嬢様をゆびさした。


「え、あ、はい」


 こら執事さん「え、あ、はい」しか言わんのか! しっかりしろ。


「いいんですかぁ? ごとうしゅがないがしろにされて~。単なるムコさんにぃ、こんなこと言わせていいんでしょうかぁ? みなさんあとでこまったりしないんですかぁ?」


「!」


 執事さんが、ハッとして顔をあげた。


 奉公人達も『あ』という顔をする。


 執事さんは、アタシに小さく一礼すると、打って変わって毅然とした声で、


「ご当主に対して不敬な態度をとり暴言を吐いた奴らを取り押さえろ! このお嬢さんを除いてな! それから誰か、葬儀に集まっている親戚の方々を呼んできてください!」


 素早く反応した奉公人たちが、パパとママを取り押さえた。


「なにをするんだ! オレは当主だぞ!」


「わたしは当主夫人になる女よ! みんな首にしてやる! 首くびクビよぉぉぉぉぉ!」



 アタシは、そっと溜息をついた。


 うまくいった。


 これでアタシはバカ3号とされないで済――



「そのひとたちに乱暴はやめて! わ、わたくしが我慢すればいいだけですから」


 は?


 ぶちこわしだ!


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