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ドアマットヒロインにすらなれないアタシは、うつくしい壺になりたかった。  作者: マンムート


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3/7

3 バカ3人には、万が一すらなさそうです。


 翌朝。


 自称アタシのパパだというオッサンが、スキップでもしそうな浮かれ具合でやってきた。


 ママいわく、『あのひと、若い頃は美男だったのよー』というが。


 あの骨董商みたくなめるように観察しても、その痕跡すら見えない。

 

 つやのない金髪、青くしょぼしょぼした目、たるんだ腹、意味もなく長い脚。


 ママの目には、アタシが見ている姿とはちがう姿がみえているんだろうけど。



 オッサンは、ママとアタシが娼館にしている借金を一括で払った。


 どこから出たお金なのか、後から請求されやしないのか。ヒジョーに心配。


 まちがいなくこいつが稼いだ金じゃあない。


 伯爵家の金を横領したんだろうか。


 失敗すれば後ろに手が回って、アタシも共犯にされるだろう……。


 そうなる末路が見えてしまう。




 アタシは、裸で、鏡の前に立つ。


 自分で言うのもなんだけど、顔の作りは悪くない。ただ、働きづめなので色つやが悪い。


 体は男に乱暴されてる生傷だらけ、がりがりのやせっぽち。


 月のモノだって止まったままの、貧乏くさい体。


 あいつは、こんな貧相なアタシのどこを見て、磨けば光るなんて言ってくれたんだろう。



 アタシは、精一杯化粧をして、血色良く見せかけて。男が喜びそうな派手な色気をつけくわえる。


 ドレスから出る肌についた生傷を、念入りに消す。


 一番いい下着(すぐ脱がされるか、最初から脱いで待たされるので、それほど痛んでない)を身に着け。


 肌の露出が過多のうすっぺらくて安い生地の白いドレスを着る(それしかない)。


 滅多にはかない、高いヒールの黒い靴を履く。


 鏡の中のアタシは、見事、毒々しい色気をまとった娼婦になっている。


 誰が見ても娼婦だ。男にはモノ扱いされ、女には汚物を見る目で見られる娼婦。


「アンタさ……なに一生懸命化粧してるの? いくら化けたって、うまくいくはずなんかないのにさ」


 鏡の中のアタシが、アタシを嘲笑う。


「どうせ早かれ早かれ死ぬんだから、夢くらい見たっていいじゃない」


 鏡の中のアタシが、泣きそうな顔になった。


「バカね」


「アンタもね」



 古臭いけど豪華な馬車へ乗せられて、うっきうきのオッサンとママと一緒に伯爵家へ向かう。


 先行き不安しかない。いいことが起こらない予感しかしない。


 それなのに、しっかり化粧して、精一杯美人になってるアタシ……キモイ。



 馬車の狭いコンパートメントで、オッサンは、アタシの体をじろじろ見ながら。


「すっかりレディになったな……ママの若い頃にそっくりだ」


「ママとそっくりだなんて、うれしいです♪」


 ぞっとする。


 アタシのことを値踏みしている視線。


 こいつの頭の中で、アタシは素っ裸にされてオモチャにされているんだろう。


 あんたの娘であることになっている相手をだよ?


 やせっぽちで、がりがりで、濃い化粧でいろいろ隠してる女をだよ?


 バカだけじゃなくて、キモいとかさ、終わってるよ。



 アタシは、小首をかしげ無邪気な声で、


「ねぇパパぁ。おくさまがお亡くなりになって何日たってるのぉ? あんまり早いと、いろいろめんどうなことになるんじゃないのぉ? めんどうなのやだぁー」


 オッサンは、いやらしい目で、あたしのおっぱいや股のつけねを見ながら、


「お前は何も心配することはないんだよ。オレがあの家の主人なのだからな」


「わぁ、すごーい」


 この手のひとには、だいたい、


「すごーい」「わるいひとね」「ふふ、つみなひと」

「かっこいー」「たくましー」「すてきー」

「ほれちゃうかも」「たまらないわ」

「こんなのはじめて」「いっちゃうぅ」


 とか言っておけばなんとかなる。


 そういえば、あの骨董商には、こういうセリフを一度も言わなかったな……。



 にしても、このオッサン。入り婿のくせに主人とか言ってるよ。


 やっぱり、だめだこれは。 


「そうよー。話が早い方がいいでしょう。半年なんて待てないわよー。明日あの女のお葬式やるみたいだから。パパったら、そこでわたしが新しい奥様だって大々的に発表してくれるって! 名案でしょ!」


「うわー。かんぺきだねぇ~」



 終わった。


 親類縁者がいるまえで発表するとか、正気を疑う。


 これは、万が一もない。


 兆が一、その葬式やらを乗り切れて、奇跡的になんとかなったとしても、いつか絶対にやらかす。


 つーか、もしそれで乗り切れたら、乗り切れたように見えただけで、罠だよね。



 馬車は、娼館のあるゴミゴミした下町を抜け。


 にぎやかで、きらめく、繁華街を通り抜け。


 しあわせそうなアパルトメントが建ち並ぶ地区を横目で見てから。


 お屋敷が立ち並ぶ閑静な地区へ入っていく。


 ろくでもない人生の末路へと疾走している。



 だけど、娼婦をやってりゃ、こういう危機は何度もあった。


 アタシはママに悪い客を何度も押し付けられてひどい目にあってる。


 悪い噂しかないヘンタイ貴族の屋敷に派遣されて監禁されて殺されそうになったり。


 無理心中させられそうになったり。


 刃物もちだされたり。


 首絞められたり。


 今回もなんとかなると……いいんだけど。



「本当の妻と娘はお前たちだけだからな。どんなことからでもオレが守る」


 勝手に言ってろ。


「あなた、頼もしいわ!」


「パパ、すごーい」


 すごいバカだよ。


 馬車の窓に映ったアタシがアタシを嗤う。


 そういうアンタもね。


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