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ドアマットヒロインにすらなれないアタシは、うつくしい壺になりたかった。  作者: マンムート


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2 バカはありえない期待をする。そんなアタシはバカ3号


 ママは浮かれていた。


 そしてママはバカである。


 ベッドの中での軽口を何度も真に受けて、似たようなことを何度も言った。


 そのたびに、裏切られてきた。


 というか、こうも裏切られると、信じるママのほうがバカだな、としか思えない。



「わぁ。すごいねぇ! あたしが伯爵令嬢だなんてぇ!」


 とりあえず合わせておく。


 どの客に言われたんだろう。まさか、アレじゃないよね?


「あのひとの奥方がくたばったって! さっき、パパがそう言ってたわ!」


「!」


 まさかのアレだった。


 ママがあのひと、という客はひとりしかいない。


 ママが貢ぎまくっている(アタシから巻き上げた金も注ぎ込んでいる)貴族のオッサンだ。


 アタシの父親……ということにもなっている(ママとオッサンがそう言ってるだけだけど)


 でも、まさか。まさかね。


「ええっ!? 亡くなったって……びょーき? 流行り病かなにか? こわーい」


「なに言ってるのよ! あの人がついにやってくれたのよ! あの人ならいつかやってくれると信じてたわ!」


「……」


 あのオッサンほんとうにやりやがったのか。


 自分の奥方を毒で、やっちゃったのか。


 一週間前、ママに、ちょっとずつ盛った毒でそろそろ死ぬはず、とかほざいてたらしいけど。


 まさか、ホントウとは思ってなかったんだけどなぁ。


 バカは怖い。怖すぎ。


 あとさき考えないのは怖い!


「アタシが伯爵家の奥方! ああ、なんて素晴らしいのかしら♪」



 奥方を毒殺するとかオッサンはバカだ。


 そしてママもバカだ。


 バカ1号とバカ2号だ。



 そんなうまくいくわけないでしょ。



 だけど、一応訊いてみた、


 バカはバカなりに、なにか計略があるのかもしれない。


 奇跡的にすばらしい計略で、成功する目がちょっとはあったりするかもしれない。


 ついでにアタシも、ここから抜け出せる……かもしれない。


 期待できないけど。期待しちゃいけないけど。


「じゃあ。あたしはぁ伯爵家の御令嬢になれるってことなのぉ?」


 とバカ3号として訊いてみると


「当然でしょ! 明日にはアンタは伯爵令嬢よ!」


「わーい。おじょうさまとか、うれしー」



 そろそろ毒が効くって言ってたのが一週間前。


 それから昨日までのあいだのどっかで死んだにしても、時間がない。


 根回ししてないなこりゃ。



 アホか。



 そんなうまくいくわけないでしょ。頭にウジでも湧いてんの?


 よほど慎重に根回ししてても、うまくいく可能性は限りなく低いっていうのに……。


「これでパパがご当主様! あのクソ女が消えた今なら、すべてはパパの思うがままよ!」


「わぁ。すごーい」



 アホか。



 たしか、あのオッサンは、入り婿でしょ。


 当主ですらないでしょうが。


 奥方が亡くなったら、単なる他人でしょうが!


 それに。


「でもでもぉ、オジサマのうちには確かぁ、あたしより2歳年上の女の子がいたはずだよねぇ? そのこが文句いってきたらぁ」


 ママは自信満々に言い放ちやがった。


「すごーく気が弱いヤツだそうだから、だいじょうぶよー。最初にガツンと言ってどっちが立場が上かを教え込んでやれば、どうとでもできるわ」


「ママすごーい」


 だいじょうぶなわけないでしょ。おたんこなすめ。


 あのオッサンは入り婿。つまり、正統な後継者はその女の子。


 アタシより2歳上だから、まだ正式には当主を継げないけど、仮の当主として権限はふるえるはず。


 オッサンにくっついてやって来たあそこの奉公人を相手した時。


 ちょーっとサービスしてやったらペラペラしゃべってくれたから知ってる。


 それに。


 お貴族様には親戚だの寄子だのというやつらがうじゃうじゃいて、鵜の目鷹の目で本家の隙を伺っている。


 変な奴ら(この場合はアタシら親娘)を家に引っ張り込んだら、つけこんでくること間違いなし。


 なんでこんなこと知ってるか、と言えば。


 うちの娼館は中の上なんで、貴族の奴らも結構来ててさ。


 そいつらが愚痴ったり、悪口いったりしてるから、そのあたりを繋ぎ合わせれば、いろいろ判るはず。


 だけど、ママはその辺、聞いてないんだろうね。聞きたくないから。


「さぁ仕度しなさい!」


「はーい。あたしが伯爵れいじょとかうれしー。今夜はねむれないかもー」


 たしなめたところで、バカ2号は聞かないでしょうね。


 まぁ、たしなめる気もないし。


 それほどの義理もないし。だって、アタシの稼ぎの半分はこいつが抜いてるんだから。



 でも、これはうまくやればチャンスかも。



 毎日毎日好きでもないオスや。


 ひとりよがりで全然きもちよくないオスや。


 意味もなく殴ってきたりするオスどもの相手ばかりしてて汗まみれの傷だらけ。


 こんなごみ溜めから抜けられる可能性が、ごくわずかにしろあるのは、魅力的。



 駄目だろうって判っているのに……。


 とりあえずバカな企みに乗ってみることにした。



 万が一うまくいけば、食うには困らない立場が手に入るわけで。


 本当に万が一だけど。


 億が一かもしれないけど。


 ………。


 ああこんなことを期待しちゃうのは、アタシがバカ3号だからなんだろうな……。


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