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ドアマットヒロインにすらなれないアタシは、うつくしい壺になりたかった。  作者: マンムート


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15 違和感の正体

 翌日。


「わぁぁぁ……」


 見渡す限りの青い海。


 上にはどこまでも続く青空と、船が張る白い帆。



 アタシたちは、船に乗っていた。


 昨日、雨に打たれて、溶けちゃいたいなんて思ってたのが、ウソみたい。


「向こうにつくまで、何日かかるの?」


 隣で、一緒に海を見ているマックに訊くと、


「一週間」


「そんなにかかるんだ。海って大きいんだ」


 進んでいく方を見る。


 視界いっぱいに、こっちにも青い海と青い空しかない。


 他には何もない。


 なぜか、マックは笑った。


「?」


「振り返ってみなよ」


 アタシは、後ろに何かあるのか、と思って振り返ってみた。


「うわ。ながい!」


 海の青い表面を、白い大きな筋が走っている。


 船の先頭が海に白い泡を立てて、後ろへ長い長い痕を引いていく。


「ほんとうに、気にもとめてないんだな」


「なにを?」


「あの町を。当分、戻れないんだぞ」


 言われて初めて、昨日までいた場所のことを思い出した。


 ついさっき、離れた街のことを。


「……あのロバ、大丈夫かな」


「知り合いの骨董商に譲ったよ。何度か貸したこともあるし、ロバもあいつに懐いてたからな。大丈夫さ」


「よかった……」


「でも、よりによって、真っ先に出て来るのがロバとはな……本当に気にもしてないんだ」


「気にしたほうがいい? 気にするものなの?」


「……どうだろうな。ボクは、あそこで育って、商売のイロハを叩きこまれて、それなりに思い出があるけど、キミにとってはいい場所じゃなかったんだろう」


 思い出。


 ママ。パパと称するおっさん。業突く張りの娼館主。タチの悪い常連客。


 いろいろ教えてくれたお姐さんたち。


 そして、彼。


「……そういえば、あのお屋敷どうなったんだろう?」


「感心うすいなぁ。あんな目にあった原因なのに」


「もともとアタシとは縁のないトコだったし。今は、その……」


 マックの手をきゅっと握った。


 そうしたら握り返してくれる。


「しあわせだなって思ってるから……」


 なんでだろう。


 こうして好きな人の手を握って、握り返されるだけで、実感する。


 今のあたしはしあわせなんだって。


「縁がないとは言えないよ。なんせあの壺があったのは、あのお屋敷だったんだから」


「ええっ!? どういうこと? あっ……」


 そういえば。


「あの屋敷のりっぱな玄関ホール! 空の台座があった!」


 もしかしてあそこに、青空の壺が……。


「そっか……アタシはあの壺に助けられてたんだ」


「え? どういうことだ? 壺がキミを?」


「マックは覚えてるかわかんないけど。『玄関ホールを見れば、そのお屋敷のことは大体わかる』って言ってたじゃん」



 マックと呼ぶ時、まだちょっとドキッとする。


 きっといつか、この感覚にも慣れてしまうんだろうけど。


 でも、忘れないようにしたい。



 彼は、ちょっと考え込んで、


「……ああ。一番最初に会った時、偉そうにそんなこと言っちゃったな……」


 遠い目になってる。



 あの時は、アタシだって『すごいお仕事ですね』『へぇ! そんなに見抜けるんですか!』とか。


 バリバリ接待モードだったんで、思い出すと恥ずかしい。



「えっとね、あの玄関ホール。立派な台座があるのに何も飾られてなかったんだ。それでこのお屋敷、ああいうものを売り飛ばしてるんだと思って。これはヤバイって」



 あそこで感じた違和感。


 豪華なのに、調度品は燭台くらいしかなくて、なのに調度品が置いてあったはずの台座は幾つもあって。


 燭台は灯りのために必要だったから、残しておいたんだろう。


 だけど、立派な台座にあったはずのものは……?



 つまり、あのお屋敷は、豪華な飾りを売り飛ばさなきゃいけないくらい金がなかったんだ。



「……それは運がよかった。あの二日後。ボクはあの屋敷に、代わりの調度品を納入に行ったんだ」


「代わりって?」


「あれだけの屋敷の玄関ホールに飾りがなんにもなかったら、いかにもお金に困ってるみたいだろ。だから、模造品や偽物をそれっぽく置いておくんだ」


「……貴族サマって、見栄張るのが大変だね」


「その時、あそこの執事さんから、いろいろ聞いてね……キミが事件に巻き込まれているのを知ったんだ」


「じゃあ、アタシが異変に気付いたのは」


「あの日。だったからだね」



 もしも、あれから三日後だったら。


 アタシの自称パパが、もう少し慎重だったら。


 葬儀の日に、ママとのことを発表するなんて、バカなことを言いださなければ。


 当然、模造品や偽物が飾られていて。


 今のアタシには、それが見抜けるとは思えないから。


 あの違和感に気づかなかったってこと……。



「人の運命ってわかんないね……」



 あのお屋敷がお金勘定的にマズそうだなんて感じなければ。


 お嬢さまの行動に乗っかって、あのうちに入り込もうとしてしまったかもしれない。


 そうしていたら……。


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