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ドアマットヒロインにすらなれないアタシは、うつくしい壺になりたかった。  作者: マンムート


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14 あなたの名前を呼んでもいい?


「はぁぁ……」


 アタシの口から気怠いため息が出た。


 すごくしあわせ。


 この人と、もっともっとずっとずっとベッドの中で、イチャイチャしていたい!


 でも、さすがに。5回立て続けはね。


 仕事だったら、一晩で10回させられたことあるけど。


 それはまぁ、いろいろ技術があって(それでもボロボロにされたけど)。


 本気で好きな相手と、ガチでしちゃったら、ぐったり。



「はぁぁ……」


 と隣で彼もためいきをついた。


「もう、これ以上は、煙もでそうにない……」


 いや、出せるよ。無理やり。


 娼館で教わった技術を使えば。どんな男でも出させること、できる。


 優しくしてくれてたお姐さんのひとりが『タチの悪い客を満足させるように見せつつ、おとなしくさせる方法』だって教えてくれた。


 そのお姐さんは、ロクデナシに刺されて、背中の傷のせいで、他の娼館に売り飛ばされてしまったけど……。


「ねぇ、そういえば、明日船に乗るんでしょう? 時間は早いの?」


「正午だよ。風向きが沖合へ向かうんだ」


「乗る前に準備だってあるんでしょう? なら、今日は休んでおいたほうがいいよね……」


「……ああ、そうだな」


 なんとなく、お互いの声に、名残惜しさを感じる。


 疲れ切っているのに、キモチとしては、もう少し、したい。


 でも寝ておかないと。


「……」


「……」


「眠れない」


「うん……」


 同じベッドで、好きな相手が裸でいて。


 しかも、お互い意識しあっていちゃ、眠れないよね……。 

 

「今日は、キミに手を出す気なんかなかったんだけどな……」 


 そんなかわいいことを言うから、


「今日は、っていうことは遅かれ早かれその気だったんでしょ」


「……そ、それは、キミが拒めばずっと……」


 今までさんざんアタシのことキャンディーみたいに舐めまわしてたくせに。


 でも、そういうこと言ってくれるのは、うれしい。


「じゃあ問題ないでしょ。アタシからキスして、火をつけちゃったんだから」


 それから、アタシたちは、ぽつぽつとお話をした。


 心は、すごく満たされていた。


 ベッドはふかふかで、アタシたちが色々汚しちゃったけど、それでも安心できるにおいに包まれてて。


 明日からのご飯も心配することがないし、ママにあがりを毟り取られることもない。


 それになにより。


 となりには、好きな人がいて、安心できて。


 しかも、今でも夢みたいだな、と思うけど、アタシのことが好きなんだよこの人!



 どうせ、眠れないんだからと、アタシは、彼に身をすり寄せた。


 汗に濡れた肌が触れ合うだけできもちいい。


「マクドナルド」


 そっと名前を呼んでみた。


 アタシみたいな最低の娼婦に名前を呼ばれたがる客なんていないって、ママにきつく言われたけど。


 でも、言ってみたかった。彼になら――


「え」


 退かれた!


「あ……ごめんなさい。やっぱりアタシなんかに、名前で呼ばれたくないよね……」


 調子にのりすぎちゃった。


「そんなわけないじゃないか」


「だって、ママに言われてたんだよ。お客さんはアンタみたいな最低の娼婦に名前をよばれたくないって。あっ」


 また、抱きしめられてしまった。


 すごく、ぎゅっと。


「……ひどい親だな」


「呼んでもいいの……?」


「ああ、親しい人にはマックって呼ばれている」


「……マック」


 と恐る恐る言って見る。


「なに?」


「ううん。呼んでみただけ……でも、うれしい」


 受け入れられる喜びがあふれてくる。


 名前って不思議。単なる音の組み合わせなのに、特別な響きがある。


「あ、でも、アンタじゃなくて、マックだって、アタシの名前呼んだことないよね……?」


 アタシにも当然、名前はある。


 娼婦の届け出に、ローズって書いてある。


 でも、お客さんにも、ママにもほとんど呼ばれたことない。


 この人にも。


「呼ばれたくないんじゃないか?」


「言われてみれば……そうかも」


 なんで判ったの? と目で訊くと


「……なんでだか……ローズって名前は偽物っぽく感じたんだ。キミの名前なのにキミの名前じゃないような……」


 やっぱり、この人、すごいな。


 それに、お客として来てた時から、アタシのこと、よく見ててくれたんだ。


「……そうかも。『ああ、娼婦のローズさんを呼んでるんだ、あ、アタシのことか』みたいな……」


 そのあと、殴られたり、裸にされたり、怒鳴られたりする合図みたいなもの。


「じゃあ、名前を新しくつけたらどうだろう。キミに似合う名前を」


「あ、アタシの名前を……アンタじゃなくて、マックがつけてよ」


「ボクは、キミの名前を知りたい」


「えっと、どういうこと?」


「キミの名前はキミのものだ。ボクがつけたら、その、なんというか……『こいつにはオレが名前をつけた! オレのペットだ!』みたいな傲慢が生まれるかもしれない」


 それでもいいけど。


 実際、今のアタシはマックにメロメロだから。


 娼館でさえやらなかったようなプレイだって、やってくれ、と言われたらやっちゃうだろう。


 でも、こういうことを言ってくれるのは、アタシを大事にしてくれるから、ってことは判る。


「……ちょっと時間をくれない?」


「すぐじゃなくていいよ。しっくりくる名前があるはずだよ」


 やさしく言われる。


 アタシは悩んだ。


 でも思いつくのは、娼館で聞いたような名前ばかりで、どれもピンと来ない。


 柄にもなく考え込んでいるうちに、アタシは眠ってしまった……。







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