最終話 —抗う者たち—
肆の国の空は黒かった。
雲は裂け、冷たい雨が静かに地を叩く。
フルー、アヴェルス、モドキの三人は、廃都市の塔の頂に立っていた。
「……来る」
アヴェルスが低く呟いた瞬間、空がまるで誰かに切り裂かれたように割れた。
そこから現れたのは、複数の影。
水神ウル。
そして、声神の力を取り込んだ“死神”。
さらに、その背後に揺らめく光の群れ――神々の残滓。
「また会えたね、アヴェルス君」
ウルが笑い、死神が静かにフルーを見下ろす。
「廃棄の子。あなたの眼は……邪魔」
フルーは息を呑み、眼帯に手をかけた。
「来いよ……! ボクは逃げない!」
赤い眼が光り、世界の“線”が開く。
その横で、アヴェルスが槍を生成し、モドキが翼を広げる。
「ここで終わらせるか……始めるか、だ」
アヴェルスの声には恐れも迷いもなかった。
空を裂く雷。
地を揺らす水。
死神の黒い靄。
そして――世界の白い空間から漏れ聞こえる神々の声。
『悪魔を滅せよ』
『死神の眼を回収せよ』
『世界の秩序を守れ』
――世界そのものが、彼ら三人を殺しにかかっていた。
「いいねえ……最高だよ、ご主人様!」
モドキが笑って跳び立つ。
フルーは短剣を握る。
アヴェルスは槍を構える。
巨大な神の力と、たった三つの影が真正面からぶつかる。
「アヴェルス……」
「なんだ」
「絶対、生き延びよう」
「当然だ」
三人は並び、迫り来る影へと駆けた。
世界が光で満たされる直前、フルーは確かに笑っていた。
(ボクたちの戦いは……これからだ)
そして――白い閃光がすべてを包み込んだ。
──俺たちの戦いは、これからだ。
<了>
元々はSIN本編の外伝的位置づけの予定でした。
あまりの反応のなさに心が折れて打ち切りエンド化しました。




