表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

あとがき

この作品は「30分読破シリーズ」の本編を呼んでくださった方への感謝の気持ちとして執筆したものです。

物語の性質上、この『あとがき』にて作品内の裏話やネタバレを含んだテーマの核心に触れるため、本編の最終話までが未読の方は先に小説本編をお読みいただくことをおすすめします。


ネタバレを含む解説や僕自身の考察は、本文読了後にじっくり味わってもらえたら嬉しいです。


 主人公・相川直哉の心は、物語冒頭の時点でほとんど死んでいました。


 東京で仕事に追われ、働くために生きるのか、生きるために働くのか、その境目も見えなくなっていた。目的を見失い、ただ数字と上司の顔色に追われる毎日。

 そんな彼が久々に故郷へ帰ったのは、お盆という「帰る」季節であり、父親の手術という偶然のきっかけでした。もしそれがなければ、彼は実家へ戻ることもなかったかもしれません。

 

 これは現代の多くの人に重なる姿ではないでしょうか。


 物語の仕掛けとして選んだのはタイムスリップです。誰しも一度は「あの時に戻りたい」と思ったことがあるでしょう。あの時こうしていれば、もっと違う未来になったかもしれない。

 直哉は未来を信じることができず、むしろ過去に強い執着を抱いています。その中で最も深い後悔となっていたのが、小学校時代の同級生・小田切ひかりとの関係でした。

 子どもの頃の彼は、恥ずかしさのせいで素直になれなかった。その悔いを晴らすために、彼は不思議な力に導かれ、過去へと戻っていくのです。


 第一話から第二話にかけて、直哉は「もし自分が少しでもひかりに干渉できれば、未来を変えられるのではないか」と考え、勇気を出して行動を選びます。

 けれど最終話で明かされるのは、直哉が「助ける側」ではなく、むしろひかりの方こそ、直哉を未来に生かすために願い、タイムスリップしていたという事実でした。

 

 つまり二人は、お互いを助けるために同じ時間を旅していたのです。だからこそ、この物語のタイトルは直哉のものではなく、ひかりのものとして書いています。


 読者の皆さんには直哉の変化に注目していただきたかったため、ひかりの落ち着いた行動はやや背景に退いて見えたかもしれません。しかし実際には、喧嘩ばかりしていた過去を後悔していたのは直哉だけではなく、ひかりもまた「やり直したい」と強く願っていたのです。


 父親のセリフ「走りっぱなしは、タイヤが擦り減る」は、いかにも父親らしい、不器用な比喩です。

 けれど、こういう言葉こそ時間を経て効いてくる。直哉が最後に会社の上司へ「自分の望み」を伝えられたのは、ひかりの存在だけでなく、この父の一言があったからだと思います。

 両親は、都会で苦しんでいる息子のことをある程度わかっていたのでしょう。偉そうな忠告ではなく、生活の中で出てくる素朴な言葉の方が、人を動かすことがあります。


 あまり直接的には書きませんでしたが、直哉は物語の序盤から、自分の未来を見てはいません。最終話の冒頭で彼が見知らぬ人に親切をする場面は、彼なりに世界へ感謝を残そうとした行為でした。それは「これで最後かもしれない」という心の準備のようなものでした。


 けれど結末で示した通り、直哉とひかりはお互いを想い合い、時の流れに逆らってまで結び直すことができた。彼らは過去を変えただけではなく、いまを生きる意味をもう一度見つけ直したのです。現実でも、行動ひとつひとつの積み重ねがやがて大きな変化につながります。もう不思議な力は必要ありません。二人は、同じ時間を生きる中で、また互いを助け合っていくでしょう。


 直哉がようやく言えた「好き」と、ひかりが伝えた「生きてね」。

 この二つの言葉がほどけにくい結び目となり、彼らの未来を支えていく。


 この物語が、読んでくださったあなた自身の「言えなかった言葉」に少しでも触れられるきっかけになれば幸いです。

他にもさまざまなテーマで30分読破シリーズを更新していますので、ぜひあわせて読んでみてください。きっとまた別の「結び目」に出会えるはずです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ