砂の月4-2
巫女様にちょこちょこついてくと、もわっと湯気の出てる蒸し暑い小部屋に到着した。
「失礼致します」
そう言ってあたしの着ているものを全部脱がせた。な、何されるの?
「え、えっと、巫女様?」
「桜悠様、私のことは椿とお呼び下さい。これから少しの間目も口も閉じていて下さますか」
慌てて言われた通りにすると、いい匂いのするあわあわで全身をゴシゴシされ、お湯でジャバジャバ洗われた。
「もう目を開けて頂いても大丈夫ですよ」
目を開けると今度はたぷたぷのお湯の中に入れられた。気持ちいい。前にお父さんが緑の宮に行った時、スープの具になったよって言ってたのはこれのことかな? こんなにたくさんのお湯を作るのって大変そうだな。
暫くしてぽかぽかになったところでお湯から出され、今度は真っ白な布でぐるぐる巻きにされた。そしたら一瞬で髪の毛まで乾いた!何この布? すごっ!じっと布を見てたら椿さんがあたしに服を着せながら教えてくれた。
「貴族の方々は手や身体を洗った後この布を使って乾かすのです。桜悠様がお風邪をお召しにならないようにと桐樹様がご用意なさいました。さぁ、手を少し上げてくださいますか?」
そして見たことのない可愛い緑色のワンピースを着せてもらった。スカートなんて初めてで大人になった気分だ。お母さんの着ているような長くてストンとしたのじゃなく、膝丈まででヒラヒラとしている。胸のところに大きなリボンがあって、触ってみるとツルっとした滑らかな布でびっくりした。
「お袖の長さは……大丈夫そうですね。後で仕立て屋が参ります。できあがるまではこちらでお過ごしください」
「仕立て屋?」
「桜悠様のお身体に合わせてお召し物をお作りするのですよ。普段用、外出用、紫の宮用とたくさん必要なのです。」
「3つも!?」
「もっとたくさんですよ。さ、こちらをお履き下さい。靴は適当なものというわけにはいきませんので、暫くは部屋履きとなります」
靴を履いて、また椿さんの後をちょこちょことついていくと、階段をいくつか登った先の扉を開け、ここがしばらくの間あたしの部屋になると教えてもらった。部屋の左側に椅子とテーブル、右側にはあたしサイズのベッドがあって、真ん中には大きな窓がありそこから外が見渡せる。
「そのずっと先には4の里があるそうですよ」
「あっお父さんとお母さんって?」
「もうお戻りになられたとは思いますが確認して参りますね。それからお食事もお持ち致しますのでそれまでこのお部屋から出ずにお待ち頂けますか?」
「ぐぅ……えへへ」
あたしのお腹があたしの代わりに返事した。椿さんは急いで戻りますねと言って出て行き、暫くしていい匂いと一緒に戻ってきた。ご飯だご飯だわーい。
「こちらにお座りください。お食事に致しましょう。それからご両親は家に戻られたそうです。10の休息日に会えるのを楽しみにしてますとのことでした」
休息日かぁ。長いなぁ。それに頑張らないと会えないって言ってたなぁ。うん、頑張ろう。その間にテーブルに美味しそうなご飯が並べられていく。
「さぁ、冷めないうちにお召し上がりください」
「椿さんありがとう。椿さんは一緒に食べないの?」
「桜悠様、さんはいりません。椿とお呼びください。私は後で頂きます」
年上の人に呼び捨てってなんだか偉そうな感じでやだなぁと呟いたら、椿さんが桜悠様は貴族になられたのですから慣れなくてはいけませんと窘められた。
ご飯はあつあつのスープにふわふわのパン、新鮮な野菜、トマトで煮込んだお肉。どれもすごく美味しかったけど、一人ぼっちのご飯はちっとも楽しくなかった。これからも一人で食べるのかな? どうしてみんな一緒に食べないんだろう?
食事の後、仕立て屋がくるので長椅子でくつろいでいるよういわれた。あたしがベッドだと思ったものは椅子だった! あぁもしかしたらお貴族様はベッドのことを長椅子っていうのかもしれない! 今度おにいちゃんに教えてあげよっと。
(トントン)
「仕立て屋が参ったようです。中に入っていただきますね。桜悠様はそのままそこでお座りになったままでいてください。声をかける必要はございません。はいなら頷く、いいえなら首を横に振ってください」
そう言うと知らない女の人と女の子を2人中に連れてきた。
「お初にお目にかかります。赤の宮より参りました結と申します。桐樹様より本日は桜悠様のお召し物を誂えるよう承っております。早速ですが採寸させて頂いてよろしいでしょうか?」
椿さんを見ると頷いたのであたしは頷いた。
2人の女の子があたしのお洋服を脱がせて長い紐で色々測り始めて結さんがそれを書き留めていく。あたしは言われるがまま、立ったり座ったり、手や足を上げたり下ろしたりした。あー疲れた……。