砂の月3-2
(キーンキーンキーン)
笛の葉の音が3回聞こえた。お昼ご飯の時間の合図らしい。お母さんと音の聞こえた方に移動するとグループ長さんのところにみんなが帰ってきた。そこにはとりわけ大きな木があって、その根元に座ってご飯を食べることになった。あたしも竹籠バッグからお弁当を出す。ちょっと固めのパンの間にお肉とトマトとチーズが挟まれたサンドイッチだ。どこのおうちも同じような感じみたいで、みんな似たようなものを食べてる。
「きのこたくさん採れた?」
グループの中で若そうなお姉さんが声をかけてきた。
「うーん、3つきのこの頭を見つけたけど食べられるのは1つだけだった。でもお母さんはたくさん見つけたよ! 桜も掘る手伝いをしたの」
「あたしも掘ってみたら食べられないやつだった〜ってことよくあるよ。桜ちゃんのお母さんみたいなベテランさんにあたしも早くなりたいわ〜。そういえば桜ちゃんは女神様から何を頂いたの?」
っ!そうだった! 名前のことですっかり忘れちゃってたけど、あたし動物さんとお話ができるだったよ!
「えっとね、まだ試してないんだけど……」
と辺りを見回す。本当にあたし動物さんとお話ができるのかな? ちょうどその時枝の上で囀る小鳥を見つけた。
「小鳥さん小鳥さんこんにちは」
「……」
そう呼びかけたけど小鳥さんは見向きもしてくれない。えーーーお話できるんじゃなかったのーーー?
「もしかして桜ちゃんは鳥とお話ができるの力を貰ったの?」
「うん……女神様は動物さんとお話ができるようになるよって言ってた」
「そうなんだ! じゃあうんと練習しないとだ」
「練習?」
「女神様から能力を頂いてもそれがすぐに使えるわけじゃなく、みんな一生懸命練習して色々できるようになっていくんだよ。あたしは美味しいキノコや木の実を見つけやすいって力をもらったけど、沢山ある中でどれが美味しいのかを見分けるのは自分だからねー。自分で食べてみたりこういう形のが美味しいとか教えて貰ったりして、だんだんと美味しいものを選べるようになってきてるんだー。桜ちゃんも最初は里にいる猫ちゃんとかわんちゃんとかに話しかけていくといいんじゃないかな」
「うん! 帰ったら桜、お隣の猫ちゃんに話しかけてみる!」
そのあとまた皆できのこ採りをした後おうちに帰る時間となり、朝結んだ赤い紐を辿って森の門の広場に、そこから門を通って郷に戻ってきた。そしてそのまま皆で集会所に向かう。収穫物は自分たちが食べる分や里で物々交換をする分は除いて、全てこの地を管理しているお貴族様に納めることになっているそうだ。集会所の一番奥の扉の中に入ると、前の方の壁際にずらっと箱が並べられていた。各里毎に箱が決まっているみたいで、お母さんは右から4番目の箱にちょっと触ってから今日採ったきのこをその中に入れた。
「ちょっと上から覗いてごらん」
そう言ってあたしを抱き上げた。箱の中を覗きこんで見たけど中にはなぁんにもなかった。あれ?きのこどこ行った?
「きのこなくなってる!」
「不思議でしょ。箱にちょっと触って採ってきたものを納めると誰が何を入れたのかがご領主様にわかるようになってて、納めたものがそのままおご領主様の元に送られるんだって。でね、毎月終わりにひと月頑張りましたねってご領主様からお金を貰えるの。そのお金で必要なものを宮都で買えるんだよ。昨日桜が食べた栗饅頭とかね」
「へぇ。じゃぁいっぱい頑張ったらたくさん栗饅頭が食べられるんだね! 」
「そうね。また皆で食べに行こうね」
って話しながら集会所の外に出るとお母さんのグループの人達が待っていてくれた。
「桜ちゃん、今日は1日お疲れ様。動物とお話できる能力ならこれからも森に行くことがあるかもしれないね。でも狩猟グループは無理か〜。桜ちゃんが獲物と仲良くなって殺さないで〜とかなりそうだ」
「あはは」
そんな未来はない、桜は来月から紫の学び舎に通うのだからと思ったのか、お母さんは桜の手をぎゅっと握って曖昧に微笑みながら、皆にお礼を言い挨拶をして別れた。
「あっ、にゃーがいる! 」
帰りがけに目の前をのそのそと歩く隣の家の猫さんを発見!
「にゃー! にゃー! こんにちは! 」
「……」
じーっとあたしとにゃーの見つめ合いが始まった。練習ってお姉さんが言ってたもん。懲りずに何度も話しかける。
「にゃー!にゃー!こんにちは! 」
「……」
「にゃー!にゃー!こんにちは!」
「……」
挑戦すること何回目だったかな、やっとにゃーがあたしと視線を合わせてくれた。今だ!
「にゃー!にゃー!こんにちは」
「桜ちゃんこんにちは〜」
「お母さん! お母さん! にゃーがこんにちはっ言った! 」
あたしとにゃーとの戦いを見守ってくれていたお母さんに報告するとよくできましたって頭を撫でてくれた。えへへ。
晩御飯の時にお父さんやお兄ちゃんに、森のお話やにゃーのお話をいっぱいお話するぞーって張り切って帰ってくるのを待ってたのに、結局晩御飯も食べずにあたしは寝てしまった。