砂の月1-4 桐樹&日向
桐樹
所有するいくつかの郷の神殿長の地位を引き継いで今年で3年目。全ての郷の儀式に参加はできないので、他は副神殿長に任せ、今年は1番子供の数が多かった第14郷の試しの門の儀式を執り行うことにした。どの子も希望に満ち溢れ、その姿を見るのが年に一度の私の楽しみとなっている。試しの門でそれぞれが能力を授かった後、その能力を発揮できるような職を探すのは大変ではあるが、視察の際に頑張っている子供たちを見ると本当に嬉しい。
今年の第14郷の子供たちは全部で25名だった。1番最後の女の子が部屋に入り門の色を確認して私は驚愕した。
門の色はどの宮でも平民の場合通常は白だ。両親とも貴族の子は生まれた時から2つ名なので、試しの門はその宮の色に輝く。ここは緑の宮なので緑色だ。母親が平民の庶子の場合、第2地区で生まれると生まれた時に2つ名を貰うものが稀にいて、その子供は正室の子とされ貴族として扱われる。平民の母が子供を里で産んだ時は必ず子供は1つ名となるが、6歳の試しの門で門が緑に輝き2つ名となり、父親に引き取られ貴族になるものもいる。
だが今回の色は虹色だった。つまりこの子供は将来新しい虹の宮様か、あるいはそれを支える副神殿長か神殿騎士団長か神殿魔法団長か神殿魔術団長か神殿魔晶団長の1人となるのだ。虹の宮様の代替わりが近づくと各宮に一人試しの門の色が虹色になる子が現れる。彼らは次期虹の宮様に相応しいと皆に認めて貰えるような人物になれるよう、切磋琢磨し自分を磨いていくのだ。
ただ現虹の宮は特殊な力により不老不死で知られている。それなのに何故虹色だったのか……。
私は急ぎ緑の宮様へ面会の願いを出した。
「お時間を頂きありがとうございます。至急ご報告せねばならない案件がございます。人払いをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「桐樹、久しいな。そこまで重要な案件なのか?」
「はい」
「皆下がれ」
皆がいなくなったところで今回の出来事を報告した。
「虹だと!? それは確かか?」
「はい。この目で見ましたので。名は桜悠と言います。両親ともに平民で、母親に貴族との接点はありません」
「そうか……。まずはその子の確保だな。その子の両親には?」
「2つ名になったことを理解しておりますので。4日に神殿に来るよう伝えてあります」
「暫くは神殿で匿い教育を頼む。楓乃には養子を迎えるとだけ話をしておく。わかってはいるだろうがこのことは他言無用だ。虹色に関してはうちで知るものは、私たち以外には妻と日向だけとする」
「かしこまりました」
その夜神殿に戻って今後やるべきことを考えると目眩がした。いや、大変なのはあの子供か。1日でも早く貴族の生活に馴染んでもらわなければならない。可哀想ではあるあるが4日にここに来たらそのままここで生活してもらうことにするか……。巫女を呼び早急に部屋を整えるよう指示を出した。
日向
昨夜、父様から朝一番でそちらに行くので、人払いをして部屋で待機するよう連絡があった。帰ってこいではなく父様がわざわざ来る? 門まで出迎えではなく部屋で待機? なにか良くないことでも起こったのだろうか。結局一睡も出来ず朝になった。
「おはよう。朝早くにすまないな」
「父様おはようございます。何かあったのですか?」
「わが宮の試しの門の儀式で虹色の子供が現れたのだ」
「えっ!? 虹色ですか? でも今の虹の宮様は不老不死でいらっしゃいますよね? 見間違えではないのですか?」
「報告してきたのは第3伯爵家の桐樹だ」
「桐樹が? なら見間違えはあり得ませんね。彼は学生時代から門の研究が趣味みたいなものですから」
「あぁ。その話を聞いていたので私も間違いなく虹色だと判断した」
「……それで虹の宮様に何かあったのですか?」
「全くそのような情報は入ってきていない」
「虹色になるのは代替わりの時だけなのですか? 今現在副神殿長、神殿騎士団長、魔法団長、魔術団長、魔晶団長は代理ですよね? 」
「あぁそうだが、虹色の子供は各宮に1人ずつ現れる。必ず6人なのだ。現在代理が置かれているのは5枠だ」
「そうなると考えられるのは虹の宮様が退位を申し出た? ということでしょうか? 」
「十中八九それで間違いないと思われる。玉鮎様が虹の宮様になられてもう150年以上経っているのだ。もしかすると生きるのに飽きてしまわれたのかもしれないな」
「そうですね……。友達も家族もいなくなって更に生き続けなければならないなんて、贈り物より呪いとしか僕には思えない」
「滅多なことを言うのではない。しかし、あのお方は真面目すぎるから、お一人で色々な責務を担うのは大変であったであろうな。まぁまだ退位なさるつもりだという話を聞いていないので実際のところはわからないが……」
「もしかすると芽吹きの月の1日の新年の集いで公表なさるつもりなのかもしれませんね」
「どうなのだろうか? 後は各宮の神殿長がきちんと門の色を確認していることを祈るだけだな」
「結局は女神様が次期虹の宮様を選ぶのでしょう? 今判明しなくとも特に問題は無いのではないですか?」
「その女神様に自分の宮のものが選ばれる栄誉をどの宮の長も狙っているのだよ。表立って自分の出身の宮を優遇なさるようなものは選ばれないであろうが、皆人の子だからな。それでだ、次期緑の宮としてお前はどうしたい? その子供が虹の宮様となれるよう全面的に宮として援助するか? 」
「その成長して子供が虹の宮様になりたいと思うようになれば、その時は協力は惜しまないつもりですが、今の段階では普通の子供と同じような扱いでいいのではないでしょうか? こちらの期待を押し付けるようなことはしたくありません。父様のお考えは?」
「ふっ。お前が次期緑の宮に相応しい息子に育ってくれて心から嬉しいよ。私も勿論お前と同じ意見だ。桜悠は我が義娘となるからな。義娘の幸せを1番と考える父親でありたいと思っているよ」
「ちょっと待ってください! 義娘!? 父様の義娘ってことは、つまり僕に義妹ができるということですか?」
「あ、あぁ。先にそれを伝えるとお前がまともに機能しなくなると思ってあえて伝えなかったのだが、やはり正解だったか。お前は本当に桂香によく似ている。あれも義娘を迎え入れる準備をしなくてはと張り切っていたよ。念願が叶って良かったな。」
「女神様に感謝を! こうしてはいられない! 緑の宮に早く戻りましょう」
「少し落ち着きなさい。さっきも話したが平民の子供だ。これから楓乃と桐樹が貴族の子として振る舞えるように教育を施し、35日に宮邸に連れてくることになっている。それまでは接触禁止だ。虹色であること、両親が共に平民であることなど周囲に知られたくはないのだ。桜悠のためだ。わかるであろう?」
「はい……。桐樹が先に仲良くなることを甘んじて受けいれます」
「40日の休息日まで我慢しなさい。途中で仕事を投げ出して戻ってくることのないように。わかったね?」
「仕事を早く終わらせて早く帰ります」
「……」