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虹の宮  作者: りゅぬ
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閑話 虹の宮様

はるか昔、永暖(えいだん)28年にの年に、虹の宮様であった永暖(えいだん)の出身である橙の宮と紺の宮の間で争いが起こった。橙の宮の商人たちが、青の宮で捕れるある貝を他の宮には卸さず、全て橙の宮様に献上したのがことの発端だった。その貝は永暖(えいだん)の大好物だったので、橙の宮様の奥方様が、我が子である虹の宮様の誕生日にそれを贈ろうとしたからだった。

その貝はある病気の薬の調合にも使われるとても貴重な貝だった。紺の宮の薬師たちはどうにかその貝を売って貰えないか、と橙の宮の商人達に頼み込んだが無理だと断られた。

紺の宮の人達は、なんとかその貝を売って貰えないか橙の宮様にお願いして欲しい、と紺の宮様に奏上した。紺の宮様は橙の宮様に、貝をこちらに売って貰えないかと頼んだが、奥方様に逆らえない橙の宮様は首を盾縦には振らなかった。

困った紺の宮様は虹の宮様にどうか贈り物である貝を分けて欲しいと訴えたが、母からの贈り物を下賜することはできないと断られた。


その年、ある流行病が虹の宮を襲った。薬が足りず多くのものが亡くなった。皮肉なことにその中には虹の宮様と橙の宮様も含まれていた。


そんな中次代の虹の宮様を決めるため、各地の宮様が紫の宮の大神殿に集まった。


「貴様らのせいだ! あの貝をこちらに回してくれていたらこんなことにはならなかった! 」


と紺の宮様は跡を継いだ新しい橙の宮様を皆の前で糾弾した。しかし兄である虹の宮と父である先代の橙の宮様を亡くした橙の宮様は疑問を呈した。


「虹の宮様はお亡くなりになったのに、あなたはとても元気そうに見える。 次代の虹の宮様を自分の宮から排出しようと企んで、本当はあの貝など必要ではなく、ちゃんと薬があるのに出し渋ったのではないですか? 」


まさかそんなことが……貝を独占した橙の宮のせいなのか、実は紺の宮が薬を秘匿したのか、他の宮様にはどちらが真実なのか判断する術がなかった。


このような疑心暗鬼の中では次の虹の宮様はなかなか決まらず、紺と橙の宮様は選定の話し合いに参加することすらしなくなり、両宮間の移動門は閉鎖されてしまった。商人の訪れない紺の宮は食べ物に困るようになり、産婆師や薬師や医師を派遣してもらえない橙の宮には死傷者が出始めた。更には虹の宮様が空位のため、虹の宮様の承認が必要な魔の森やダンジョンに入れなくなり、そこから逆に魔物が紫の宮に出てくるようになってしまうのも時間の問題となりつつあった。緊急用の紫の宮への移動門の許可証が底を着いてしまえば、もはや紫の宮に行くことすらできなくなってしまう。


「紺の宮、橙の宮よ。どうか仲直りをしてはくれまいか? このままではどちらの宮も共倒れとなり、他の宮も同様に大惨事に見舞われることになる。紺の宮よ、このままではその方の宮の民はさらに多くのものが、飢えで命を落としてしまうのではないか?橙の宮よ、病気のものが薬もなく苦しんでいる姿をみてなんとも思わないのか? 産婆師のいない中出産となった赤子はの何人が命を落とした? それだけではない、 早急に新たな虹の宮様を決めなければ紫の宮も崩壊してしまう」


やっと紺と橙の宮の長との面会が叶った青の宮様は、それぞれに現状を説明した。自分の宮の対応に追われ、紫の宮の現状を把握していなかった紺と橙の宮様は、慌てて紫の宮の大神殿へと向かい、やっと新しい虹の宮様の選定が再開し、新たな虹の宮様が決定した。

そして大神殿にて女神様への挨拶の儀が行われた。本来女神様は、子供が生を受けた時の名付けと試しの門の儀式での贈り物を与える時しか人の世とは関わらないのだが、あまりの惨事を見かねて姿を現した。


「虹の宮の長になること、それは大変な任を負うことになるということを人は理解しているのでしょうか? あと少し遅ければこの紫の宮は魔物たちに蹂躙されてしまっていたことでしょう。虹の宮の長の存在そのものがこの紫の宮の安定に繋がっているのです。今後は必要な時期にそれぞれの宮に1名候補を立て、試しの門の儀式の際に候補者であることを知らしめましょう。彼らには学び舎にて様々な試練に立ち向かってもらい、更に大神殿にて研鑽をつむ期間を設け、その後次期虹の宮の長を私が任命します」


こうして女神様が次期虹の宮様を指名すれば今代の虹の宮様が引退するという流れが出来上がった。だが女神様の意図に反し、次期虹の宮様が決まる前に命を落としたり、俗世に戻りたいと懇願するものも現れた。女神様は、共に研鑽を積み、次期虹の宮の長には選ばれなかったもの達が代理を務められるようにすればいいと考えた。副神殿長、神殿騎士団長、神殿魔法団長、神殿魔晶団長、神殿魔術団長の任を設置し、それを残りの5名のものに与え、次期虹の宮様が決まるまで虹の宮の役割を果たすことができるように整えた。



今代の虹の宮様に選ばれた玉鮎(たまあゆ)は、青の宮家の当主である父と紺の宮家から嫁いできた母の間に長男としてこの世に生を受けた。このサラブレッドの跡継ぎの誕生に周囲はとても喜び、玉鮎はすくすくと成長し、6歳の時試練の門の儀式に参加した。

彼は引退した前当主のことが大好きだったが、儀式の直前に祖父は息を引き取った。人はどうして死んでしまうのだろう。死ななければいいのに……と思いながら試しの門をくぐった。


(皆を不死にすることは出来ないけれど、あなたに永遠の命を授けることにしましょう。その代わりあなたは虹の宮の長になれるようしっかりと学びなさい)


こうして試しの門は虹色に輝き、玉鮎(たまあゆ)は次期虹の宮の長の候補となり、また不死となった。青の宮のものたちは歓喜にわいた。彼こそが次期虹の宮に相応しいと期待をかけた。その期待に応えようと彼は誰よりも努力し、女神様が選ぶのはきっと彼だろうと他の宮のものたちもが認める逸材と育った。彼が27歳の時、予想通り新たな虹の宮に選ばれた。彼であればこの先ずっと虹の宮を守ってくれるだろう、と女神様も彼に期待した。死なずとも歳を重ねてしまえば何かと不便もあるかもしれないので、特別に不老も与えられ、彼は不老不死となった。


だが在位50年を過ぎたあたりから、かつての仲間だった残りの5名のものが1人、また1人と死出の旅に出るようになった。最後の友が居なくなると周囲に昔馴染みはおらず、徐々に孤独に苛まれるようになった。それでも真面目で努力家の彼は一人で頑張り続けた。何よりも特別な力を与えてくれた女神様の期待に答えたかった。

それから更に100年程過ぎ、これからもずっとこれが続くのか……と彼は絶望した。


「女神様、人の身でありながら不死を望んだ私をお許しください。永遠の命という贈り物はお返し致します。不老という肉体を与えて下さいましたが、私の心はもう限界のようです。この不老という贈り物もお返しします。死出の門をくぐらせてはもらえないでしょうか……」


女神様にそう祈った。もし願いが届いたとしても候補者が現れ次期虹の宮と選ばれるのは何年後のことなのだろうか……。それまで私は頑張れるだろうか……。


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