砂の月36-1
「おはようございます。かなりお疲れだったのですね」
「夕食の席に行かなくて、お義父様たち呆れてなかったかしら?」
「ゆっくり休ませてやれと仰っておいででしたよ。夕食を食べていらっしゃらないからお腹がお空きになったのではありませんか? お召し換えをなさってから朝食に致しましょう」
蓮に連れられて食堂に行くと、そこには菊竜お義兄様と柚人お義兄様がいた。お義父様とお義母様は今朝早くに紫の宮へ行ったのでいないらしい。
「菊竜お義兄様、柚人お義兄様、おはようございます!」
「桜悠おはよう」
「桜悠おはよう。こっちにおいで」
と柚人お義兄様が立ち上がり椅子を引いて呼んでくれる。席に着くと新鮮な野菜サラダにふわふわ卵のオムレツ、同じくらいふわふわの出来立てのパンとあつあつのトウモロコシのスープなどが次々に運ばれてくる。どれもすごく美味しい。それに菊竜お義兄様も柚人お義兄様も2人とももう食事は終えているのにその場に残り、昨日はゆっくり休めたかい? とかこのパンがオススメだよとか色々話しかけてくれた。ぼっちじゃないご飯!
あたしが食べ終わると、そう言えば……と菊竜お義兄様が立ち上がりながら聞いてきた。
「桜悠は今日は紫の宮の学び舎に行くほかの子たちとの顔合わせかな?」
「はい、そのように聞いています。皆と仲良くなれたらいいなと思ってます」
「……そうだね、では学生館まで送って行くよ。部屋まで迎えに行くから待ってて」
「学生館?」
「学び舎の生徒たちのたちのために作られた建物だよ。毎年そこで顔合わせをするんだ。じゃぁまた後で」
「は、はい!ありがとうございます!」
あたしも部屋に戻り出かける準備を整えた頃に 菊竜お義兄様がやってきて、一緒に馬車に乗り学生館に向かった。ここから半鐘くらいのところにあるらしい。馬車の中で今年はあたしを含め男の子が11名、女の子が7名の計18名が入学することを教えてもらった。皆とはこれから少なくとも6年間は一緒に過ごすことになるんだって。お友達できるかな?できるといいな。
「さぁもうすぐ着くよ」
「はい。ドキドキしてきました」
「笑顔でしっかり挨拶できれば大丈夫だ」
「はい!」
到着して中に入ると1と書かれた扉のところに案内された。そこにいた知らない大人の人に、「来月より紫の宮に入宮なさいます桜悠様をお連れしました」と蓮が伝えると、「こちらへどうぞ」と扉が開かれる。 菊竜お義兄様が空いている席まであたしを連れて行ってくれ、夕食の時にまたねと言ってあたしの頭を撫でてくれた。そして帰り際にそこにいた男の人に、義妹のことをよろしく頼むと声をかけて部屋から出ていった。
「全員揃いましたので顔合わせを始めさせて頂きます。本年度はここにおられる18名の皆様方が紫の宮の学び舎へ入学なさいます。お一人ずつ紹介して参りますので、ご起立なさって皆様に挨拶をお願い致します。では第76男爵家より右梗様」
「よろしくお願いします」
「第71男爵家より楓月様」
「よろしくお願いします」
︙
︙
「第8伯爵家より凛花様」
「よろしくお願いします」
あっ、第8伯爵家って蓮のいたところだよね? じゃあ後ろで立っているのが蓮の双子のお姉さんかな。そんなには似てない? って集中集中。なるべく頑張ってみんなのお名前と顔を覚えなきゃ!
「第3侯爵家より香梅様」
「よろしくお願いします」
隣に座ってた女の子が挨拶し終わった。次はあたしの番だ。挨拶は優雅に。
「宮家より桜悠様」
「皆様よろしくお願いしますね」
ぐるりと皆を見回して軽く首を傾げて微笑みを絶やさず挨拶をした。ちゃんとできた!と思う!
本当にただの顔合わせだけだったみたいで、「次回は40の日にお集まり下さい」と言われて解散となった。本当は話しかけて皆と仲良くなりたかったけど、蓮に帰りましょうと促されたので、立ち上がり「皆様、ごきげんよう」と挨拶をしてその場を後にしようとすると、隣に座ってた香梅さんと男の子が何人(お名前覚えきれなかった……ごめんなさい)かと凛花さんが立ち上がって「桜悠様、ごきげんよう」と挨拶を返してくれ、それに釣られて他の人たちもみんな立ち上がって「ごきげんよう」って次々に挨拶をしてくれた。
「桜悠様、お疲れ様でございました」
「ちゃんと挨拶できてた?おかしくなかった?」
「完璧でございました」
「本当? よかったわ!」
「皆様のお顔を覚えていらっしゃるうちにどこの家のどなたかおさらいをしておきましょう」
「蓮は覚えたの!?」
「勿論です。侍女ですから。ではお隣に座られていた金髪のふわっとした髪の……」
「大丈夫!その子は第……3?侯爵家の香梅さんであってる?」
「素晴らしいです、桜悠様」
蓮は香梅さんの似顔絵を紙に書き、その横に、こうばい だい3こうしゃくけと書いていってくれた。これなら覚えられる! 文字覚えておいてよかった!! そんな風にして一人一人の情報を覚えていった。蓮ありがとう!