砂の月10
「 桜悠様、おはようございます」
「椿、おはよう」
今日は蓮はお休みだから椿があたしを起こしにきた。
「本日は里のご家族がお見えになる日ですね」
そうなのだ!今日は待ちに待った休息日! お父さんとお母さんとおにいちゃんに会える日なんだ!
「はい。とても楽しみにしていました」
昨日桐樹様に家族との面会を許してもらう為に、蓮と一緒に、目指せ合格!を合言葉に頑張って覚えたフレーズを得意になって使ってみたら、 この場合は『はい』ではなく『えぇ』くらいの相槌が適当ですよ、と注意されちゃった。椿も最近蓮みたいになってきた気がする……。
「皆様は桐樹様とのご面会の後中庭の方に向かわれるとのことです」
「先に行って待っててもいい?かしら?」
「それはお控えください。身分の低いものが身分の高い方がお越しになるのを待つものなのです。先に桜悠様が中庭で皆様をお待ちになったら、平民である皆様が貴族であらせられる桜悠様をお待たせてしまったという事で罰せられてしまいます。巫女が呼びに来るまでこちら……」
と椿がいい終わらないうちに巫女の1人があたしを呼びに来た!
「桜悠様、里の皆様が中庭へ移動されたそうです」
「ありがとう」
早く会いたいと小走りになるのを椿に窘められながら中庭についた。あっ!みんないる!
「では後でお迎えにあがりますので、里の皆様と楽しい時間をお過ごしください」
椿が下がった後、本当はおとーさーん、おかーさーん、おにーちゃーんって飛びつきたかったけど、ちゃんとあたしは頑張ってるよって姿を見せたくて、蓮と練習した挨拶をした。
「お父様、お母様、お兄様、こんにちは。顔を上げてください」
でもやっぱり嬉しくて、みんなが顔お上げたところで、おとーさーん、おかーさーん、おにーちゃーんって言いながらお父さんに飛びついた。
「どう? ちゃんとお貴族様っぽくみえた? 」
「あぁ、びっくりしたぞ。頑張ったんだな」
「ほんとに。さっき桐樹様からも桜悠がとても頑張ってるって褒めてもらって、お母さん誇らしかったわ」
「お貴族がいるのかと思ったよ。でも中身は変わってさそうだ。あはは」
「お貴族様言葉ってとっても難し〜い。でもこんな時はこんな風にっていっぱい教えて貰ってるんだよ。蓮が、あっ蓮っていうのはね、さく……じゃなくって私の侍女なの。まだ私じゃなくってつい桜って言っちゃいそうになる。えへへ」
「お母さんたちもつい桜って言いそうになるけれど、さっきね、桐樹様に女神様に頂いた素晴らしい名前なんだからきちんと呼んであげて欲しいって言われたのよ。お母さんたちはもう言い間違えたりしないわ」
「う、うん。お兄ちゃんも大丈夫だぞ」
「ほんとにー?あはは」
「それで蓮さんっていうのは? 」
「あっ、そう、蓮は私の侍女でね、毎日お勉強を一緒にしてくれるし、私が間違えるとその度にそうではありませんって言ってくれるから、できるようになったこともたくさんあるんだよ」
「まぁ。桜悠がいい人と一緒にいてくれて安心だわ」
「そうだな。桜悠が元気そうでお父さんたちは嬉しいよ」
「でも一人でご飯を食べるのは寂しいよ」
「そうなのか? お貴族様ってのは一人でご飯を食べるのか? それはお兄ちゃんもいやだなぁ。あっ今日は母さんがお弁当を作って持ってきたんだよ、ね、母さん」
「皆で食べましょう。桜悠が大好きな卵焼きもたくさんあるわよ」
「うわぁ。あっちにテーブルがあるから早くいこ! 」
テーブルの上にお弁当を広げて、わいわいといろんなお話をした。うん、みんなで食べるご飯はとっても美味しい!
でも楽しい時間はあっという間で、またねって言うときは涙が出そうになったけど、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、また会いに来るねって泣きそうなのに笑顔で部屋に戻りなさいって送り出してくれたから、あたしも我慢してちゃんとお別れの挨拶をした。
「皆様、ごきげんよう。また会える日を楽しみにしています」
急いでお部屋に戻って窓からお父さんたちが戻って行く姿をじっと見つめた。本当は、行かないで、もう少しここにいて、あたしも一緒に帰る、って窓を開けて叫びたかったけど、お父さんやお母さんやおにいちゃんを守るのはあたしだ!って自分に呪文をかけて姿が見えなくなるまでずっとそこから動かなかった。早く20日になりますように……。