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創世のルキエル  作者: ウルハ
第1章~始まり~
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傲慢を食らいし子

ヴェイサが消えた直後ーー

まるで封じられていた空気が、一気に解き放たれたようだった。


沈黙が破れる。


「……い、今の……なんだ……?」


「エピルークが……消えた……?」


街の路地の奥から、徐々に人々のざわつきが聞こえてくる。

隠れていた住民たちが、通りに顔を出しては、目の前の光景に息を呑んでいた。


「うわっ、ダリオが……!」

「嘘だろ……あのダリオが……負けた……!?」


その声に、取り巻きの少年たちが顔色を変える。


「や、やばい、逃げようぜ!!」

「関わったらマズいって!!」

「チッ、あのクソガキめ……!」


罵りを残しながら、彼らは蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。


静まり返る通りの真ん中に、ただひとり、ルアンが立っていた。


その横を、ルキエルがすっと歩み出る。


彼は、倒れたダリオを無言で見下ろしていた。

そしてーーその瞳が、淡く光る。


「“傲慢”ーーいただきます」


ルキエルが、そっと右手を掲げた。


その瞬間、空気がきらりと震える。


ダリオの胸から、小さな“光の塊”がふわりと浮かび上がった。

それはまるで、深く濁った宝石のような色をしている。


「これが、君の中でいちばん強く残ってた感情」


ルキエルの掌に、それが吸い込まれていく。


「ーーごちそうさま」


彼がそう呟いた瞬間、空気が一変した。


風が止み、音が凍りつく。


ルアンは息を飲んだ。

ただ、そこにあったのは“感情”そのもの。

怒り、嘲り、見下し……全てを凝縮した一粒の塊。


ルキエルの表情が、少しだけ変わった。


「ふふ……いいね、こういう感覚」


その笑みには、どこか陶酔すら混じっていた。


「誰かを支配したくなる。

こんな気分、初めてじゃないけど……やっぱり、悪くないかもね」


まるで、誰かの心の奥を舐めるようにーー

静かに、深く、ルキエルの本音がにじみ出ていた。


その瞳の奥が、どこか冷たく光った。


そしてーー


地面にうつ伏せに倒れるダリオの身体が、微かに動く。


「……う、あ……?」


呻き声と共に、ダリオがゆっくりと身を起こす。

だが、その目にはもはや、あの傲慢な光はなかった。


「……なんだ、これ……?」


虚ろな目。自信も怒りもない。

まるで、自分が“自分である”という輪郭を見失ってしまったかのようだった。


「……どうして……おれは……?」


ルアンは、その姿を、ただ見つめていた。


そして、自分の胸に手を当てる。


(……これが、戦い……)


身体中が痛い。

血の味がする。

心臓の鼓動は、まだおさまっていなかった。


けれどーー確かに、何かを“超えた”気がした。


「ねえ、ルアン」


ルキエルが振り向く。

いつもの、軽い調子。


「やっぱり、君……面白いね。

だからさーー」


微笑んだまま、手を差し出す。


「ぼくと、一緒に旅をしよう。

この世界にいる、他のエピルークたちに会いにいこう。

“願い”を叶えるために。

“君が強くなる”ために」


ルアンは、その手を見つめた。


すぐには動けなかった。

目の前に倒れているダリオの姿が、まだ胸に残っていた。


けれど、やがてーー小さく、頷く。


「……でも、その前に……行かなくちゃいけない場所がある」


「ふふん? お別れ?」


「……わかんない。でも……放っておけない人がいるから」


そう言って、ルアンは背を向ける。


痛む身体を引きずりながら、石畳の道を歩き出す。


向かう先は、あの家。

ボロボロで、寒くて、でもーー唯一、自分に「居場所」をくれた場所。


ルアンの目には、雨上がりの空が少しずつ晴れていくのが見えていた。


(ルキエルと一緒に歩く……それが、どんな旅になるのかはわからない)


(でも、もうーーあの頃の自分じゃない)


歩きながら、ルアンの拳がほんの僅かに、星のように光った。

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