今回は失敗☆
姉たちが去った庭の静けさの中――
拳を震わせながら、ミレアはうつむいていた。
「……っ、くそ……なんであんな言い方……」
肩がわずかに震えている。
「なんで……あんな人たちに……」
その声には、怒りだけじゃなく、確かに――悔しさがあった。
「……何悔しがってんのよ!」
リリアナが勢いよくミレアの前に立ちふさがる。
「言いたい奴には言わせておきなさい!でも、悔しいって思ったその気持ちは――私が全部晴らしてあげるわ!」
「……っ」
「ふふん。今日のあんたは、私の最高傑作になるのよ!!いくわよ――第一段階!お風呂!!」
「ちょ、ちょっと!?心の準備が――」
「必要ない!!汚れと共に羞恥も流すのよッ!!」
ずるずると引きずられながら、ミレアの悲鳴が響く中――
背後から二つの影が近づいてきた。
「……姫。脱走は……失敗、ということでよろしいでしょうか?」
ノインの落ち着いた声。
「!!」
リリアナが足を止める。
「…………っっ!!あーーーーっっ!!!脱走忘れてたーーーー!!!」
「やはり」
「セレド、記録更新を」
「“第28回・計画途中で目的を忘却”。追加します」
「ちょっとうるさい!!」
リリアナはぷいっと顔を背けると、ミレアの手をぐいと引っ張りなおす。
「いいのよ、また今度よ!ミレアの方が先でしょ!今日、仕上げないと意味がないの!!」
「仕上げるって何よ!私、絵か何か!?」
「そうよ。芸術は爆発よ!!」
* * *
ふかふかの湯気が立ち込める、広すぎるお風呂場。
ミレアが湯船に肩まで浸かりながら、小さくため息をついた。
リリアナはその背後から、じっと彼女の背中を見つめていた。
「……細いわね、あんた」
「……何よ、今さら」
「違うの。……そうじゃなくて、細くなるくらい、頑張ってきたってことよ」
リリアナの声が少しだけやわらかくなる。
「……森にいたの。ずっと。誰にも見られずに、誰にも話しかけられずに」
ミレアがぽつりと語り出す。
「唯一の家族だったおばあちゃんが死んで……誰にも頼れなくなって。それでも、どこにも戻れなくて……だから、そこにいたの」
リリアナは黙って、ミレアの背中にそっと手を置く。
「……それでもね。行ってみたい場所があったの」
「うん?」
「エルフェリア。“芸術の国”。……美しいものを、美しいって言っていい国。感情も、価値も、歪められない国」
「……誰も私のことを知らなくて、誰の色にも染まってない場所。……そこで、初めて自分の感情で何かを選んでみたかったの」
リリアナは、ふっと目を細めて微笑んだ。
「いいじゃない。それ、最高にロマンチックじゃない」




