極秘
***
――紅茶の香り、ふわり。
陽の光が差し込む、優雅な昼下がり。
リリアナ姫は、窓辺のソファに腰かけ、静かに紅茶を持ち上げる。
目を伏せ、艶やかに笑い、小さく息を吸って――
「ふふ……やっぱり、紅茶は午後の光とともにね……」
指先がふわりと揺れ、小さく一口、お菓子を口に運ぶ。
とたんに、部屋中の声が響く。
「「「姫様ったら……!!」」」
「姫様はなんて……お美しいんだ……!」
「ぜひ僕と――いえ、私とお付き合いを!」
「禁断とは分かっていますが……女性じゃダメですか!?」
「ぼくたちはエピルークだけど……神との恋愛も、ありでは!?」
「だ〜めよ、私が美しいからって、みんな……ね?」
リリアナはほほえみながら、そっと髪をかきあげる。
「だ・め・よ。心は一つだけ……ふふっ」
――そんなロマンチックな妄想を抱いていた、リリアナ本人はというと。
現実のリリアナ姫:
「ぷっはーーーーー!! やっぱこの紅茶最高ッ!!」
ガッッッと勢いよくティーカップを飲み干す。
ついでに皿ごと菓子を抱え込むと――
「やっば!このクッキーも超うんまっ!しあわせ〜〜〜〜!!!」
ぽりぽり、もぐもぐ、ぼろぼろこぼしながら次々と口に押し込む。
「……うわぁ……」
ルアンは思わず目を逸らし、ミレアは微妙な顔で紅茶に手を伸ばす。
が――その瞬間。
「シュバッッッ!!」
閃光の如き速さで、リリアナの手がミレアの紅茶カップを奪い取る!
「……!!?」
「ありがとミレアちゃん!!あっつあつで最高!!」
ミレア、言葉が出ない。
ルアンも苦笑いで手元のクッキーに指を伸ばす。
が――
「それもらうわね!!」バッ!!
「えぇぇえええええええええ!?!?」
クッキーも瞬時に姫の口に吸い込まれる。
「ん〜〜〜っ!! し・あ・わ・せ!!」
リリアナは頬を両手で押さえ、目を閉じてとろけるような顔をしている。
「……ばっかバカしぃ〜……」
ルキエルはソファに寝転がりながら、呆れ気味に言い放った。
ようやく満足したのか、リリアナはぽんっと両手を打ち鳴らすと、急に姿勢を正した。
「――って、いけないいけない!妄想に浸ってたわ!」
突然現実に戻り、胸を張ってにやりと笑う。
「さぁて、今日はちょっと特別に……あんたたちにだけ、国家機密級の話をしてあげる!!」
「えっ?」
「えっ?」
ルアンとミレアが戸惑う中、リリアナはぐいっと机の下から一冊の分厚いノートを引っ張り出した。
表紙には《だっそうけいかく(超ひみつ)》の文字がデカデカと書かれている。
「……“脱走計画”……?」
「そうよ!」
ぱらららっとページを開くと、中には緻密すぎる地図、意味のわからない暗号、そして大量のスイーツのイラスト。
「わたし、もう我慢できないの!この部屋、退屈すぎて死ぬのよ!?ほら、だから今度こそ脱出しようと思って!」
「今度こそ……?」
「さあルアン、ミレア、ルキエル、協力して!!これは国家と胃袋の命運を賭けた、超重大任務なのよ!!」
「……胃袋?」
こうして――
とても姫とは思えぬお姫様の、王城お騒がせ計画が、今……始動する。




