病弱(?)リリアナ姫に再開
案内されたのは、城の奥まった一室。
重厚な扉が開かれた瞬間――中から、甘い香りと、何かが転がる音が響いた。
「わわわわあああっ!?止まんないーっ!!」
次の瞬間、リリアナ姫が勢いよく転がりながらルアンたちの方へ突進してきた。
「きゃ――っ!?」
ドシャァッ!
転がる勢いのまま、リリアナはルアンの真正面で急ブレーキ――できずに、そのまま壁ドン。
「うおっ!?」
ルアンが背を壁につけた瞬間、右手で壁を支えるリリアナが至近距離にいた。
「……来てくれたのね……ほんとに……」
大きく潤んだ瞳が、真っすぐルアンを見つめている。
「う、うん………?」
そして――
「うっわーー!!嬉しすぎるーーーーーー!!!」
突然の大声。リリアナはルアンとミレアをぎゅっと両腕で抱きしめた。
「ほんっとに来てくれたのね、あんた達!も〜〜〜最高!!」
「く、苦しい……!」
「わ、わわっ……姫、ちょっと……!」
リリアナは構わずくるくる二人を回転させ、部屋を一周。
「ねえねえ、急にどうしたの!? こんな豪華メンツでお出迎えなんて、私、王様になったんじゃない!?」
そんな調子で叫んでいると、ふと目線が後ろにいった。
「あらーー!? なんでネアル様までいらっしゃるの〜!?」
目を輝かせて駆け寄るリリアナ。その声に、ルアンが笑いながら言った。
「ネアルさんが助けてくれたんだよ。あのままだったら、ここに来られなかった」
ルアンが素直にそう言った瞬間――
「あらぁ〜? あんたたち知らないの?」
リリアナが急に声を張った。
「ネアル様ってね、どこの誰よりも偉くて!!でネアル様も…」
「姫っ!!!」
「だめです、姫!」
「リリアナ、やめなさい」
ノイン、セレド、そしてネアルまでが、ほぼ同時に食い気味で制止する。
「えっ? え?なに?」
リリアナは一瞬ぽかんとしてから、
「あ〜〜!そっかそっか!ほらあれよ!どっかの国で、すごい勇者的な?んで、超有名的な?」
「「……!」」
その苦しすぎるごまかしに、一同が顔を伏せる中――
「すごい!勇者なんだ!」
「超有名……!」
ルアンとミレアだけが目をキラキラさせて信じていた。
その様子を見て、ノインもセレドもようやく肩の力を抜く。
リリアナはふぅと胸をなでおろし、「セーフ!」と口パクで呟いた。
それを見たノインとセレドは、顔を伏せるようにして小さくため息をつき、ネアルは口元を押さえて笑いを噛み殺している。
――そのタイミングで、部屋の外に控えていた年老がそっと進み出てネアルに耳打ちをする。
すると、ネアルがふっと表情を引き締める。
「……うん、とりあえず、もう大丈夫そうだね」
ネアルは優しくルアンたちを見つめながら、続けた。
「僕たちは、そろそろこの国を出ないといけないんだ。またね、みんな」
「えっ、でも……今、橋が壊れてて渡れないはずじゃ……?」
ルアンが不安げに問いかけると、
ルアンの疑問に、ネアルはさらっと返す。
「ああ、大丈夫だよ」
そして、軽く手を上げた瞬間――
窓の外に、美しい炎のような輝きを放つ影が現れた。
燃え立つような羽根を広げた、火の鳥にも似た神秘的なドラゴンが、ゆっくりと舞い降りてくる。
その巨体が風を巻き起こし、外の木々がざわめいた。
「わぁすごい!」
「ドラゴンだ!」
「初めて見る形だわ!!」
ルアン、ミレア、リリアナが目を輝かせる一方で、
ノイン、セレド、ルキエルは微かに緊張しながら、口元を引き結ぶ。
「この子は、ちょっと珍しいからね。まぁ、また会えるよ」
そして――
ネアルの隣にいた男が、無言のままふわりと跳躍し、まるで引き寄せられるように、ドラゴンの前足の甲に軽やかに着地した。
その姿はまるで、神話の騎士。
続いてネアルも、同じようにその足の上に飛び乗る。
ドラゴンは、そのまま二人を足に乗せたまま、ゆっくりと空へ舞い上がっていった。
まるで、誰にも縛られぬ“空の王”のように。
「……すごい……」
「足に乗るんだ……!?あれ、すっごくカッコよくない!?」
「うわ〜〜!私もああいうのやりたい!」
ルアン、ミレア、リリアナが子どものように歓声をあげる中、
ネアルは振り返り、風をまといながら静かに言った。
「じゃあね、ルアン」
その目には、もう笑みはなかった。
何かを知っている者だけが持つ、透き通るような冷たい光。
そして、ドラゴンは空を切り裂き、天へと舞い上がっていった。
――その足に、二つの影を乗せたまま。




