光の後悔
謁見の間に、微かな余韻だけが残った。
けれどその静寂は、ネアルのひと言であっさりと破られた。
「さて、案内を頼めるかな? リリアナ姫のもとへ」
軽やかに手をひらりと振ったネアルに、王の背後で控えていた侍従が慌てて頭を下げた。
「は、はい! こちらへ……!」
ルアンとミレアは、お互いに目を見合わせたまま、まだ緊張の余韻から抜け出せずにいた。
「……ルアン、大丈夫?」
ミレアが小声で尋ねると、ルアンはぎこちなく頷いた。
「う、うん。なんとか……」
ルキエルがくすっと笑う。
「ふふっ。情けない顔してたよ? ま、君にしてはよく耐えた方かな」
「う、うるさいよ……」
そのやりとりのすぐそばで、ノインは立ち尽くしていた。
握りしめた手のひらは、ほんのり汗ばんでいた。
(……僕には、あんなふうにはできなかった)
ネアルの一言で空気が一変したあの場面――
ルアンが苦しそうに息を呑み、膝を震わせていたその時、自分はただ見ていることしかできなかった。
守ってあげたかったのに。今の自分じゃ、まだ届かない。
(……悔しい)
静かに唇を噛むノインの目に、まっすぐ立ち直ろうとするルアンの姿が映る。
その小さな背中を、黙って見つめ続けた。
そしてその背後――
もう一人の男が、ただ静かにルアンを見ていた。
年老いたその人物は、騒ぎにも表情を変えず、誰とも言葉を交わさない。
ただ、ずっと。ルアンを、見ていた。
まるで、その存在を確かめるように。
深く、静かに。
――そこにあるのは、祈りともつかぬような、深い何かだった。
「さ、行こうか。せっかくお姫様に会えるんだ。粗相のないようにね」
ネアルの声が空気を動かす。
一行は扉へと向かいはじめる。
「……王宮の中は複雑ですから、私が先導しましょう」
セレドが静かに前へ出ると、ネアルは軽く頷いた。
「ありがとう、頼もしいね」
高窓から差し込む光が、ネアルの背に集まっていた。
その中心に導かれるように、少年と少女は静かに歩を進める。
――まだ知らぬ真実が、やがて訪れるその時まで。




