『神子、玉座を圧す』
そして――その空気を、真っ二つに切り裂くように。
「……ふむ。ずいぶんと見苦しいな」
ネアルが口を開いた。
一歩、前へ。
静かに、けれど重く。
「……私は、ただ横で聞いていただけだったけど――これ以上は見過ごせない」
ルアンとミレアの方を、やさしく振り返る。
「彼らの目を見れば、わかるよ。嘘をつくような子たちじゃない。
そして、姫を救ったのは事実だ。それ以上、何が必要なの?」
その一言が、静かに重く、場に落ちた。
「……し、しかしネアル様、これは我が国の内政問題でして……」
王が顔をしかめたとき――
ネアルが、冷たく笑った。
「……僕に意見を言うのかい? ゼグナート・エルディア」
その瞬間――場の空気が、一気に沈み込んだ。
視線が逸れ、空気が震える。重圧が、場の全員を押しつぶしそうになる。
「……っ」
全身が押しつぶされるような重圧に、王も妃も、王女たちも身動きを止めた。
(……な、何これ……)
ルアンは息が詰まり、ミレアは膝が震える。
セレドやルキエルですら、わずかに眉をひそめた。
王の額に汗が浮かぶ。
「……も、申し訳……ございません」
やがて、ゼグナートは重い空気の中頭を垂れた。
「では、姫に会わせてもらえるということでいいね?」
ネアルの確認に、王は顔を上げずにうなずいた。
「……はい。お望みのままに……」
「……よし」
ネアルがにやっと笑って、手をひらりと振った。
その瞬間――空気が、溶けた。
圧がすっと引き、場の色が戻る。
「す、すご……今の、なに……?」
「……苦しくて……死ぬかと思った……」
「なんて魔法なんだろう……」
ルアンとミレアが呆然と呟く。
ゼグナートは額に汗をにじませながら、頭をもう一度下げた。
「……も、申し訳ございませんでした……」
そのとき、ネアルが笑顔で言った。
「……ああ、それと――姫を助けたのは事実なんだし、報酬も“当然”あるよね? たとえ彼らが望んでいなかったとしても」
軽やかに言ったその一言に――
「も、もちろん……!」
王の声がかすれた。
そのやりとりの背後――
ルキエルがネアルの背中と、傍に控える使者を見つめていた。
「ねえ、セレド。君の方が強いと思ったんだけど……君、あれに勝てる?」
セレドは静かに答えた。
「……上には上がいますからね。感情がほぼ揃っている私ですら、難しいかと」
「ふふっ、まぁそうだね。感情が揃っていようと、揃ってまいと……強い奴は強いからね」
「……あなたも、そのひとりでしょうに」
謁見の間に、微かな余韻だけが残った。




