『剣ではなく、言葉が試される日』
「……僕も、いつかはノインと戦わなきゃいけないんだよね」
ルアンの小さな呟きが、沈黙を破る。
ノインは一瞬だけ目を伏せて、困ったように笑った。
「……そうかもしれない。戦いたくはないけど、そうなる日が来るのかもしれないね」
「私たちは友達だけど――ライバルでもあるから」
そう言って、ノインは少しだけ前を向いた。
その明るさが、ルアンの胸に優しく灯をともす。
「……うん」
そして、ふと思い出したようにルアンが口を開く。
「ところで……ノインのお兄さんって、結局今どこにいるんだろう?」
「……さあね。グラズ殿を探しに行って、それっきりだし」
ノインが首をかしげる。
「けど、うちの兄、方向音痴で有名だったからね。きっといまごろ、真逆の大陸とか歩いてるよ」
「そんな大規模迷子ある……?」
「ありえる。わりとガチで」
ルアンとミレアは苦笑いを浮かべた。
そのまま、執事たちに導かれ、ルアンとミレアは客間へ案内される。
広々とした部屋、柔らかいベッド、きらびやかな天蓋――
場違いなほどの“贅沢”に、ルアンは思わず口をつぐむ。
ベッドに腰を下ろし、しばらく天井を見上げたあと、ふと呟いた。
「……この先、どうなるんだろう」
その隣で、ミレアが毛布を膝にかけたまま、小さく微笑む。
「……怖い?」
「うん。ちょっとだけ」
「うん。それでいいと思う。怖いって思えるってことは、ちゃんと前を見てるってことだもん」
ルアンが顔を上げると、ミレアはやさしく笑っていた。
その小さな体からは想像もつかないほど、落ち着いていて、頼もしくて。
「……ミレア、やっぱりお姉さんみたいだね」
「……ふふ。年上だしね、いちおう」
ルアンは苦笑しながら、静かに目を閉じた。
そして、ふたりは穏やかな眠りに落ちていった。
――そして翌朝。
ドアがノックされ、ノインの声が響く。
「君たち、起きてる? 姫のところへ向かうんだけど……一緒に来るよね?」
「……うん、すぐ準備する!」
ルアンとミレアはぱっと顔を見合わせ、小さく頷いた。
「ただし――注意しておいてほしいことがある」
「えっ……?」
ルアンが思わず声を上げる。
ノインの表情はどこかいつもと違い、やや硬かった。
「まず、君たちが会う予定の第三王女――リリアナ姫。
彼女は気さくで、屈託のない性格だけど……“あの王族の中”では少し特殊な存在なんだ」
「特殊……?」
「表向きは“病弱で隔離されている”ってことになってるけど――まあ、詳しいことは……本人から聞くのがいいと思う」
ノインは少しだけ視線を落とし、静かに続ける。
「そして――本題はここからだ。」
「まず、第一王女:アシュリー殿下。
理知的で、冷静で、判断力も優れているけれど……外部の者には一切の感情を向けない人だ。余計な話はしないように」
「次に、第二王女:エルミナ殿下。
彼女は……はっきり言って、口が悪い。感情もはっきりしていて、気に入らないものはすぐ表に出すタイプだ。ただし、それは裏表がないとも言える」
ミレアが一瞬、顔をしかめる。
「うわ……そういうタイプ、苦手かも……」
ノインは苦笑しながらも、最後に声を落とした。
「……そして、ゼグナート・エルディア国王陛下と、その妃――ヴェルメリア妃殿下」
その名が出た瞬間、ルアンもミレアも自然と背筋を伸ばしていた。
「国王は徹底した合理主義者だ。感情論や“正義”のような言葉を嫌う。全てに“結果”と“才能”を求める人だよ」
「妃殿下は……口では優しく微笑みながら、相手を刺すような言葉を選ぶ方だ。とくに“気に入らない子供”に対しては、容赦がない」
ノインはルアンたちを見据えた。
「今日は、姫に会うだけ――とはいかない。国そのものの“目”の前に立つことになる。気を抜かず、言動には細心の注意を払ってほしい」
ルアンはこくりと頷き、ミレアも小さく呼吸を整えた。
ノインは二人に背を向け、少しだけ声を落として言った。
「……でも、怖がらなくていい。君たちには、私がいるから」
そして振り返り、静かに微笑む。
「行こう。王宮へ」




