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創世のルキエル  作者: ウルハ
エルネア王国編~
44/57

『その名は過去を知っている』

ノインは、階段の踊り場に飾られた写真を見上げたまま、ぽつりと語り始めた。


「兄は、この国で一番優秀って言われてた人だった。頭脳、運動、礼儀……何もかも完璧。だけど、掴みどころがない人だった」


口調は穏やかだけど、その声にはどこか苛立ちと悔しさが混じっている。


「ある時、王の妃が兄に言い寄っていたらしい。兄は無関心だったみたいだけど……その態度が逆に妃の執着を煽ったんだと思う」


「妃は、兄がどれだけ冷たくしても引かなかった。むしろ、“どうしても自分のものにしてやる”って……そう決めたみたいだった」


淡々と続けるその言葉に、ミレアが息を呑み、ルアンも眉をひそめる。


「ある日、兄はある研究者と一緒に研究をしてた。そこに、その妃が突然入り込んできた。止める間もなく……ほんの擦り傷を負った」


「でも、それだけだったのに――彼女はそれをわざとらしく大騒ぎして、“傷を負わされた”と国中に喚き立てた」


「兄とその研究者は責任を問われることになった。特に兄には、“冷たい”“侮辱的”“礼を欠いた”……と、あることないことばかり押し付けられて」


ノインの目が細くなり、声の温度がすっと下がった。


「兄は罪に問われるはずだった。だけど――兄の師匠はすべての責任を被ってくれたんだ」


そこまで言って、ノインは小さく周囲を見回す。


「彼は、たった一言だけ口にした」


ノインの声が静かに響く。


「“王族の女が男に執着し、嘘までついて王の名のもとに告発する。それがこの国の正義か?”」


言葉が、廊下の空気を凍らせる。


「その一言だけで――“不敬”とされた。そして、即日爵位を剥奪され、名を捨てさせられて、国外追放された」


ノインの瞳が、ほんの少しだけ沈んだ。


「兄は犯してもない罪を免れて、以前と変わらぬ生活を送っていた。でも…兄はずっと後悔をしているように見えたよ。何故私の為に…とまで嘆いていたほどにね」


ルアンも、ミレアも、その話に言葉を挟むことができなかった。しんとした空気の中、ノインがふっと小さく笑う。


「そして、ある日――兄は言ったんだ」


『グラズ殿を探しに行く』


「それっきり、兄は姿を消した」


「……え?」


突如ルアンがぴくんと肩を震わせ、目を見開く。


「ちょ、ちょっと待って……その“研究者”って――」


ノインが首を傾げる。


「……うん?」


「そ、その人の名前……グラズって言わなかった!?」


驚いたように、ノインの表情が強張る。


「……え? なんで君が……」


ルアンの声が震えていた。


「グラズって――僕の育ての親だよ!!」


「……っ!」


空気が止まる。ノインだけでなく、ミレアやセレドも、思わず目を見開いた。


「えっ……そんな……グラズ殿が、君の……?」


ルアンは、小さく頷いて続けた。


「うん…捨てられてた赤ちゃんの僕の事を拾ってくれたんだ…生活はあまりいいものではなかった…けどね」


苦笑しながら、言葉をつなぐ。


「けどね、グラズはたまに優しい時もあったんだ。今回僕が旅に出る時だって…」


そこまで言ったところで、ルアンの言葉が詰まった。


———

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