『完璧の家に、不完全な私』
◇◇◇
「それでは、こちらへどうぞ」
整列していたメイドたちが一礼し、ルアンたちを館内へと導いていく。
白く磨かれた床。左右対称に配置された絵画と花瓶。廊下の隅々にまで“完璧”が行き届いている。
階段を上がると、踊り場に一枚の写真が飾られていた。
額縁に収められていたのは、一人の青年。知的な顔立ちで、瞳にはどこか冷静な光が宿っている。
「この人……誰?」
ミレアがふと立ち止まり、写真を見上げて訊いた。
ノインがその隣に立ち、少しだけ懐かしそうに目を細める。
「……兄だよ。かなり年は離れてるけど、間違いなく“この家の誇り”だった」
「ノインの、兄さん……?」
「うん。……この国では、すべてにおいて“完璧”が求められる。頭脳、体力、表現力、言葉選び、身だしなみ……一つでも欠けたら“落ちこぼれ”扱いだ」
ノインは写真から視線を外さず、淡々と続ける。
「私は、ずっとこの家では“落ちこぼれ”だったんだ」
「えっ……?」
ミレアが驚きの声を上げる。
「こんなに優秀なのに? 君、実はそんなに優秀じゃないの?」
ルキエルが何気なくそう言った瞬間――
「……ノイン様はとても優秀ですよ」
セレドがぴたりと足を止め、冷たい声で言い放った。
「少なからず、あなたたちよりはるかにね」
ルキエルの笑顔が一瞬で固まる。
「……むっ……」
空気がピンと張る。
ルアンとミレアが慌てて身を乗り出す。
「す、すみませんっ、うちのルキエルが……!」
「ぜ、全然悪気はないので……っ!」
セレドはしばし沈黙したのち、深々と頭を下げた。
「……大変申し訳ございません、おふた方。売り言葉に買い言葉という形で、二人にまで八つ当たりのような事をしてしまいました」
「い、いやいや! ほんと大丈夫ですから!」
「むしろ、こっちこそ……!」
「……ははっ、セレド。君もちょっと言葉きついよ」
ノインが小さく笑いながら呆れたように言い、場の空気がようやく和らいだ。
そしてノインは、再び兄の写真を見つめる。
「兄は、この国で一番頭が良いって言われてた。何をやらせても完璧だった。だから、私がどれだけ頑張っても、追いつけなかった」
「じゃあ……そのお兄様は、今……?」
ミレアの問いに、ノインが静かに答える。
「兄は、掴みどころのない人だったよ。家族の中でちやほやされてるからと言って横暴な人でもなかった。私への態度も特に何も変わらず……あれは、私に興味なかっただけかもしれないけどね」




