『偏見に、刃を向けて』
玄関前には執事たちがずらりと二列に並び、礼儀作法の完璧な姿勢でノインを迎えていた。
そして、彼らの中央に立つ気品な見た目をした男女——ノインの両親が立っていた。
ノインが近づくと、母親がすぐに一歩前へ出る。
「ノイン!やっと帰ってきてくれたのね。もう、どれだけ顔を見ていないことか……」
「おかえり。やはり我が家の空気が一番落ち着くだろう」
父親もどこか満足げに微笑む。
だが、ノインの反応は冷ややかだった。
「あなたは優秀な子だから、家にいてくれたらどれほど助かることか」
「そうだ。姫の護衛ばかりで疲れているだろうに、たまには家に落ち着けばいいんだよ。家の跡継ぎとしてもな」
「……別に、ここで落ち着く気はないよ」
ノインの口調はピリッと張り詰め、両親の無邪気なおだてなど、まるで聞く気もない様子だった。
そのまま振り返り、後ろの三人に視線を向ける。
「彼らは、私の友人だ。今日から一週間、ここに泊まってもらう」
「……え?」
両親の笑みが、ぴくりと引きつる。
母親の目が、ルアンとミレアに向けられ、父も眉を僅かに動かした。
「……お名前は?」
母の問いに、ルアンは丁寧に頭を下げる。
「る、ルアンと申します。こちらはミレア。そして……」
「どうも、ボクはルキエル。ルアンの契約エピルークさ。よろしくね」
軽やかに微笑むルキエルに、執事たちが目を光らせる。
「……ご出身は?」
「……アナグナです」
その言葉が落ちた瞬間――
空気が、ざわっと揺れた。
「アナグナ?」「まさか……」「なんでまた……」
執事たちが目配せし、低い囁きが広がる。
その場に漂う偏見が、ミレアの表情を凍らせる。
そして――。
キィィン……
ノインが腰から剣を下ろし
硬い音が、石の床に響いた。
それだけで、場の空気が一変する。
ノインの声が低く、冷たく響く。
「……彼らは、私の友人だ」
ノインの声が変わる。温度が、ない。
その冷たさに、場の全員が反応を止めた。
「この屋敷に、一週間泊まってもらう。そう言ったはずだ」
母親が、わずかに動揺を見せる。
「でも、ノイン――」
「“でも”はない」
ノインは、剣から手を離さずに言い放った。
「私が見ていない間に、彼らに何かしてみろ。……その時は、容赦しない。家族でも、例外ではない」
石造りの屋敷に、ぴたりと静寂が落ちる。
両親も、執事たちも、何も言えなくなっていた。
「わかったね?」
両親が小さく息を呑む。
母親が一歩退き、父親は無言のまま目を伏せた。
「か、かしこまりました」
執事たちは深く頭を下げ答える
圧倒的な威圧に、誰も言い返せない。
その中で――ルアンとミレアは、ノインの背に守られていることを、はっきりと感じていた。
怖いほどにまっすぐで、でも、絶対に裏切らない何か。
(ノインさん…やっぱりかっこいい…)
(僕も思った…やっぱりこの人すごい…)
ミレアとルアンは小さな声でそう呟いた。




