『救いの手は、誠実の名を持つ』
「……すまなかった。」
ノインが改めてルアンたちに向き直り、深く頭を下げる。
「……いえ。助けてくださって、ありがとうございます」
ルアンが頭を下げる。小さな声だったが、その言葉には確かな礼の気持ちがこもっていた。
「とりあえずもう一度市場でご飯買いなおそうか。お詫びに私に奢らさせてくれ」
———ノインに助けられたあと、市場の片隅で、
ルアンとミレアはようやく再び串焼きにありついていた。
ノインが代わりに買ってくれたものだ。手に持つだけで、まだほのかに温かい。
「……すごく美味しいっ……」
「うん……ちょっと泣きそうだったけど」
ミレアの呟きに、ルアンも小さく笑った。
ルキエルは背後の壁にもたれかかりながら、くすっと笑みを浮かべる。
「やれやれ。やっぱり、人間は“空腹”だと生きられないんだね」
「……ルキエル、君もひとくち食べてみたら?味は分かるんでしょ?」
「ボクは遠慮しておく」
言葉と裏腹に、じっと串を見つめているその目を、ルアンは見逃さなかったが――何も言わなかった。
食事を終えたあと、再び広場の外れに集まる。
「……ノイン様、本当にありがとうございました」
「いや、助けになれてよかった。……ところで、君たちはこれからどうするつもりだった?」
ノインの問いに、ルアンは少し躊躇ってから答える。
「……本当は、明日にはここを出ようと思ってたんです。あんまり長居できる場所じゃないって……それに、宿も難しそうだから」
「それで、今からでも出られそうなら、馬車を借りに行こうと思ってます。国境まで歩くのは……ちょっと、時間がかかりすぎるので」
「……なるほど」
ノインは頷き、セレドに視線を送る。
「馬車の手配、できる?」
「ええ、もちろん。……ですが」
「ですが?」
セレドが静かに言葉を継ぐ。
「エルディア国の東境界線――アデル橋が崩落しました。昨日の早朝、貨物車の事故によるものです。通行不可となり、修復にはおよそ一週間を要するとのことです」
「……っ」
ルアンとミレアが同時に顔を上げる。
「一週間……」
「そんなに……!」
ルアンが眉を寄せる。ミレアも、動揺を隠せない。
ノインは静かに二人を見つめ、それからゆっくりと言葉を紡いだ。
「なら――私の家に泊まっていくといい」
「え……?」
「姫も、君たちに会いたがっていた。……それに、これは私の責任でもある。あの手形を渡したのは、私なんだから」
ルアンが何かを言いかけたが、ノインはそれを制するように小さく笑った。
「遠慮はいらない。広い家なんだ。寝る場所にも困らないし……何より、私の目の届くところにいてくれる方が安心できる」
そして、まっすぐな目でルアンたちを見て言った。
「当面は私がそばにいる。……それだけは約束するよ」
ノインの声は柔らかく、それでいてどこまでも誠実だった。
「……ありがとうございます。お世話になります」
そうして3人はノインの家へと向かった――




