『一口の幸せ、一瞬の終わり』
市場は、街の中央に広がる広場に面していた。
香ばしい匂いと人々の声。並ぶ屋台には焼き立てのパン、煮込み料理、串焼きや果物。色とりどりの料理が湯気を立てて並んでいる。
けれど――その賑わいの中に、ルアンたちの姿は浮いていた。
「……どこも、美味しそうだけど……」
「……こっち、安そう」
ミレアが指差したのは、鉄板で串焼きを焼いている小さな屋台だった。
ルアンはおそるおそる近づいて、数枚の硬貨を差し出す。
「これで、二本……いただけますか?」
店主は、ちらりと彼らを一瞥すると、あからさまに眉をひそめた。
「……外部者か。……ま、金さえ払うなら構わん」
ぶっきらぼうに言いながら、彼は焼きあがった串を二本、鉄板から抜き取って、乱暴に差し出してくる。
(……嫌そうな顔、隠す気もないんだな)
ルアンが受け取ろうとしたとき、ミレアがぽつりと呟いた。
「……ご飯は、売ってくれるんだね」
「最低限の取引だけは成立する、って感じかな」
ルアンも苦笑しながら頷く。
すると、背後からルキエルの声がした。
「まあ、流石にここでのたれ死なれても困るってことだろうね。異物でも、生きて動いてる方が“監視しやすい”ってわけ」
「……言い方」
「でも、間違ってないでしょ?」
ルキエルは肩をすくめながら、香ばしい匂いに鼻をひくつかせた。
「ふぅん。美味しそうだね、それ。君たちばっかりずるいなあ」
「食べないって言ってたくせに」
「僕は食べなくても生きてるけど、……こういうの、見るのは好きなんだよ」
ふと笑ったその声に、ミレアも少しだけ表情を緩めた。
「……ふふっ、やっと食べられるね」
「うん……でも、ここで食べるのはちょっと……目立つかも」
「あ……そうだね。ちょっと外れの方で、静かに食べようか」
二人は人の流れの少ない広場の端へと移動する。屋台の喧騒から少しだけ離れた石畳の陰――小さな木のそばに腰を下ろす。
「ね、冷めないうちに食べよう」
「うん。いただき――」
その瞬間だった。
「おい、何してんだ貧民ども」
声が降ってくる。
顔を上げると、数人の兵士を従えた若い男が立っていた。飾りのついた鎧、整えられた髪。身なりは整っているが、目に宿るのは軽蔑と傲慢。
「そんな汚い手で、王都の食べ物を触るな。吐き気がする」
男はにやりと笑い、ルアンの手から串焼きを奪い取る。
「っ……!」
紙に包まれたままのそれを、彼は無造作に地面へ叩きつけ、靴で踏みにじった。




