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創世のルキエル  作者: ウルハ
エルネア王国編~
37/57

『白き街、満たされぬ心』


ルアンが意気込んで扉を叩くと、中から出てきたのは、髪をきっちり結った中年の女性。


「部屋をお借りしたいんですが――」


「……申し訳ありません。当宿は、紹介状のあるお客様専用でして」


「え……」


「ご紹介者様の名は?」


「えっと……ノイン様と、リリアナ姫の……」


その名を出した瞬間、女主人の目がすっと細くなった。


「……そうですか。でも、手続き上、書面の“宿泊許可”までは確認できておりませんので」


ぴしゃり、と扉が閉まる。


「……うまく、いかないね」


「べつに、あんなとこ泊まりたくないし……!」


ミレアが強がるように呟くが、その目は少し揺れていた。


気を取り直して、別の宿にも向かってみた。

だが――


「紹介状の形式が不明ですので、お引き取りください」


「現在、外部渡航者の宿泊は制限されております」


「アナグナ出身?……申し訳ありません」


何件まわっても、答えは同じ。


形式的な拒絶と、皮肉めいた丁寧語に包まれた、見えない拒絶の壁。


「入国はできても、宿までは無理なのかもね〜」


ルキエルがつぶやくと、ミレアとルアンも小さく頷いた。


「……なんか、寒い。冷たい感じ。空気も、人も」


「……やっぱり、エルディアって、こういう国なんだね」


沈黙が落ちる。二人とも、言葉を失ったように歩を止める。


その時――


ぐぅぅぅぅぅぅ……


「っ!? な、なんでもないっ!」


ミレアが顔を真っ赤にして背を向けた。


「ふふっ……」


思わず笑ってしまったルアンも、すぐに真面目な声に戻る。


「ごめん。でも、ちょっと助かった。……とりあえず、ご飯にしよう。お腹すいてるのは、本当だし」


「……ん。うん」


小さくうなずくミレアの手を引いて、ルアンは歩き出す。目指すのは、さっき通りがかりに見えた市場の方。


「……でもさ」


歩きながら、ミレアがぽつりとこぼす。


「こんなとこ、早く出たいよね。明日には、もう……他の国境に向かえたらいいのに」


「……僕も、そう思ってた」


「ボクも〜ここなんか生きずらァ〜い」


ルアンは空を見上げる。


「宿はだめでも……馬車とか、借りられたりするかな。お金、どれだけ残ってたっけ……」


「安いのなら、あるかも。市場の近くなら、乗り合いの馬車とか出てそうだし」


「うん、探してみよう。とりあえず、ご飯の後で」


「……ちゃんと、食べてからね」


ミレアの返事に、ルアンは笑顔で頷いた。


「よし。じゃあ、今日の目標はまずご飯」


「ご飯。あったかいのがいい」


「できれば甘いのも……」


「お菓子買えるほどの余裕、あると思ってるの?」


「……が、頑張る」


他愛のないやり取りをしながら、三人は市場の方へと向かっていく。


背後には、白く無機質な街並みと、突き刺すような視線。


けれど、少しずつ――ルアンたちの歩みに、ほんの少しだけ温もりが戻っていた。


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