『異邦の歩み、白き街にて』
門の向こう、エルディア王国。
足を踏み入れた瞬間から、空気が違っていた。
石畳は雪のように白く、街路は歪みひとつない直線で伸びている。整然と並ぶ建物、その扉や窓までもが、計算され、並べられていた。
けれど――その整いすぎた都市の中で、ルアンとミレアの存在は、あまりにも異物だった。
「……見られてる」
ミレアが前髪の奥から小さくつぶやく。ルアンも、それを否定できなかった。
すれ違う人々の視線が、あからさまに冷たい。興味ではなく、疑い。軽蔑。排除しようとする意志。
彼らの視線の先――それは、くたびれた外套に旅の埃をまとう少年と少女。そしてその背に浮かぶ、異形の存在――ルキエル。
「……外部者?」「なんで門を通されたの?」「あの格好……どう見ても下層民でしょ」
囁き声が広がっていく。
「え?ノイン様と……リリアナ姫の許可?」「リリアナ姫って、あの隔離された第三王女の?」「あんな病弱な方に、通行許可を出せるのか?」
「ていうかノイン様が? 彼、ああ見えて甘いからな……情けをかけたとか?」
「いや、もしかして……何か裏で小細工でも?」
「“推薦状”って形だけで、中身は偽物なんじゃ……?」
「外部者に手形?あり得ないでしょ。いくらなんでも」
道端のカフェ。品のいいドレスを着た女たちが、紅茶を飲みながら声を潜めて笑う。
「最近、王族周りもゆるんでるわよね。
あんな汚らしい子供たちを入れるなんて、
エルディアも地に落ちたものだわ」
「才能?どこに?あんな見すぼらしい子どもに?」
くすくすと笑い声が続く中――
ルアンはうつむいたまま、足を止めずに歩き続ける。
ミレアはぎゅっと拳を握っていたが、彼の横顔を見ると、何も言わずについていった。
「ふぅん、偏見と噂の洪水。清潔すぎる街には、汚れた心の吹き溜まりが多いらしい」
ルキエルが肩をすくめて笑う。
エルディア王国は、彼らに“存在する価値”を問うていた。
一歩ごとに、冷たい目が刺さる中で。
「……とりあえず、今日は泊まる場所を探そう」
ルアンがそう言って周囲を見回すと、整然とした街の一角に、いくつか“宿屋”の看板が掲げられているのが見えた。
白い外壁に、金属製の装飾。どれも立派で、まるで貴族でも迎え入れるかのような佇まい。
「よし、あそこに聞いてみよう」




