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創世のルキエル  作者: ウルハ
エルネア王国編~
35/57

エルディア王国

◇◇◇


午前の光が差し込む峠の先。


森を抜けたルアンたちは、ついに“境界”の前に立っていた。


「……ここが……」


目の前に広がるのは、切り立った岩壁に囲まれた巨大な門構え。

そこには“国境”という言葉があまりに生々しく突き刺さるような、冷たく、無機質な重圧が漂っていた。


エルディア王国。

知性と完璧を重んじ、選ばれた者だけがその内側に生きることを許される、才覚の檻。


門の両脇には全身を鎧で覆った兵士たちが無言で立っており、その背後には厳格そうな関所の建物がいくつも並んでいる。


「……空気が、違う」


ミレアがぽつりとつぶやいた。

その言葉に、ルアンも静かに頷いた。


「ふふっ、面白いじゃないか」


ルキエルが口元を緩めて、城門の装飾を見上げる。


「でも、“外”の人間はどう見られてるのか、そろそろ実感すると思うよ。君たちも、“選ばれなかった側”なんだからさ」


その言葉に、ルアンの胸が静かに痛む。けれど、もう足は止めなかった。


門の前に立つと、すぐに兵士が無言で手を上げて制止する


「身分証を提示してください」


無機質な声。目も合わせず、ただ規定をなぞるように。


ルアンは少し緊張しながら、懐からノインとリリアナ姫の署名が入った通行証を取り出して差し出す。


兵士の目が動く。だが次の瞬間、その手がぴたりと止まった。


「……この証明書は……」


もう一人の兵士が歩み寄り、ちらとルアンたちを見下ろす。


「……お前たち、どこから来た?」


唐突な問いに、ルアンは少しだけ躊躇った後、正直に答える。


「……アナグナ、です」


その言葉を聞いた瞬間、兵士の顔がわずかに歪んだ。


「アナグナ? なるほどな。じゃあこれは……」


彼は通行証をぴしゃりと閉じ、吐き捨てるように言った。


「無効だ。帰れ」


「え……?」


ルアンとミレアが同時に声を漏らす。


「アナグナ出身者が持ち込んだ通行証など信用に値しない。偽物の可能性がある。」


「そ、そんな……!ほ、本物なのに…っ!」


「辺境から来た者が、王家の手形を持っているとは信じがたい。偽物を持ち込むのは罪だ。迂回して次の国境まで歩いて行け。」


「……結局この先の国境線まで、また歩いて回り道しろって言うの……?」


ミレアの声がかすれた時――


「ふぅん。もう門番でこの扱いか」


ルキエルが退屈そうに首を回しながら、門の上部を見上げた。


「エルディア王国、すごいねぇ。偏見と差別が高い塔みたいに積み上がってる」


兵士が鋭く睨むが、その目の先――


「……正当な手形だろ? それの何が悪い」


静かな声が背後から響いた。


振り返ったルアンたちの視線の先には、一人の少年とその傍らに立つ壮年の男の姿があった。


少年は気品を纏っていて、静かながら芯のある瞳。


その後ろに控える男は、神官のような衣を纏い、どこか異質な荘厳さを持っていた。


「貴、貴方様は……!」


門兵の一人が驚愕に目を見開く。だが、少年は淡々と言葉を続ける。


「どう見ても本物の手形だ。それに、彼らのような子供が、嘘をついてこの国に入ろうとするような“利”があるとは思えないが」


「で、ですが……」


「いいから通してあげなよ。君たちこそ、仕事の“正確さ”を誇るんじゃないのか?」


それ以上何も言えず、兵士たちはわずかに頭を下げながら、門を開いた。


「通っていい。……通行を許可する」


ゴォオオ……という重たい音と共に、門がゆっくりと開いていく。


その横を歩く青年が、ちらとルアンを振り返った。


「僕の名前は――ネアル。君達は?」


「ルアン、ですこっちがミレアで彼はルキエル、

僕のエピルークです。

先程はありがとうございます。」


「ルアンか。……いい名前だね。」


ネアルはそう言って、小さく微笑む。


ふと、ネアルの視線がルキエルへと向く。


ルキエルはその視線を受けながら、薄く目を細めて言う。


「……なに?」


「……いや、なんでもないよ。

君、面白いエピルークだね」


そう言って、ネアルは視線を戻し、歩き出す。


「僕たちはこの国に少し用事があってね。また、どこかで会えるかもしれない。

……じゃあ、またね。ルアン、ミレア、ルキエル」


「は、はい……!」


ルアンが小さく頭を下げると、ネアルの隣を歩く老人が、静かにルアンを一瞥した。


その目が、一瞬だけ揺れた。


そして彼は、何も言わずにネアルの後を追った。


――門の奥、エルディア王国の中枢へと。


ルアンたちは門をくぐった。


あの重たい扉の先に広がるのは、光と影の世界。

整いすぎた街路。真っ白な石畳。優秀であることが正義とされる国。


そして、そこにはまだ知らぬ未来が、静かに待ち構えていた。


その先にある“真実”を知らぬままに――。


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