No.5
そんな気まずそうな雰囲気のなか、マルガが手を叩きながら立ち上がった。
「さぁさ! 辛気臭い話はおしまいだよ。皆でお風呂に入って、さっぱりしようじゃないか!」
ミレアは顔を赤らめ、慌てて手を振った。
「わ、私、こう見えて18歳なので、みんなとお、お風呂は……!」
マルガは笑いながらルアンに目を向けた。
「じゃあ、ルアンは私と一緒に入るかい?」
ルアンは驚いて、顔を真っ赤にした。
「ぼ、僕もこう見えて14歳なので、一人で入れますっ!」
マルガはどっはっはと豪快に笑いながら、彼らを見下ろすように言った。
「なんだいなんだい、アナグナの子たちは皆、年齢より見た目が若いんだねぇ! 羨ましいこった!」
腰に手を当てながら、マルガが続ける。
「私なんてさ、生まれはカリム。もう見ての通り、骨太でガタイばっかよ! カリムの女は皆こうさ。ガツンと育つ!」
ルアンが興味津々に尋ねる。
「カリム国って、どんなところなんですか?」
マルガはうんうんと頷いて、鍋の蓋を片付けながら答える。
「武力の国さ。あいつらはもう、脳筋の集まりみたいなもんよ。力こそすべて! 悩むより殴る! ま、私も似たようなもんだけどね!」
その豪快さに、ルアンとミレアはつい笑ってしまう。
その後皆は別々にお風呂に入り、その日の疲れを癒して言った。
お風呂上がり、マルガが用意してくれた寝巻きに着替えた二人は、それぞれの布団に身体を沈めた。
夜は静かに更けていく。
そして――翌朝。
陽光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる頃。
ルアンとミレアは荷物の整理をしていた。身支度を整え、食堂へと降りると、すでにマルガが待っていた。
「おっ、早いね。ちゃんと休めたかい?」
「はい、おかげさまで!」
マルガはにやりと笑って、カウンターの裏から何かを取り出した。
「でさ、あんたら……ひとつ言っておくけど」
「?」
「そのボロい服のままエルディア王国に入ろうってのは、ちと無理があるよ。ノイン坊やとリリアナ様の手形があっても、“見た目”で弾かれるのがエルディアって国さ」
「えっ……」
「だからこれ」
マルガは、綺麗に畳まれた衣類をふた組、テーブルの上にドンと置いた。
「特注の旅人用。少しは見栄えが良くなるから。お代は姫様から前払いってことでね」
ルアンとミレアは目を見開く。
「……ありがとうございます!」
「礼はいらないさ。あんたらがちゃんと歩き続けること、それが何よりの返礼ってもんよ」
ルキエルがひょいと後ろから覗き込む。
「……僕のは?」
「はん、あんたは要らないだろう。汚れないし、食わないし、寝ないし。神様なんだろ? うちのシーツに穴開けられちゃ困るのさ」
「……まあ、否定はしないけど……ふんっ」
拗ねたようにそっぽを向くルキエル。
そんなやりとりに、ミレアがふっと笑って言う。
「……行こっか、ルアン」
「うん」
マルガに手を振りながら、三人は再び森の道を歩き出す。
背には新しい服と、温かい宿の記憶。
そして心には、それぞれの小さな決意を灯して。
――こうして、ルアンたちは再びエルディアの門を目指して歩き出した。




