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創世のルキエル  作者: ウルハ
小話
33/57

No.4

広間の奥、焚き火の炎に照らされた木製の食卓には、温かい蒸気を立てるスープと焼きたてのパン、香ばしい肉料理が並んでいた。


「ほれ、食べな。今日はちょっとだけ奮発してるよ」


がっしりとした腕で皿を配りながら、女将が笑う。

手慣れた動きと、それを見守る常連客たちの視線が、彼女がここで長く愛されていることを物語っていた。


ルアンとミレアは、「いただきます」と小さく言ってからスープを啜る。


「……ん……あっつ、でも、おいしい……!」


「っ……このパン、外はカリカリなのに……中がふわふわ……」


「うちの自慢の薪窯で焼いたパンだよ。水もな、山の湧き水から汲んできてる。……まあ、手間はかかるけど、こうやって“歩いてきた子たち”には、ちゃんと食わせてやりたいのさ」


女将が、腕を組んでテーブルの隣に腰を下ろす。


「さて……遅くなったけど、自己紹介しておこうかね。私はマルガ。この宿を切り盛りしてン十年ってところだ。誰もが通る森の道、旅人の中継地――って呼ばれるようになったのも、まあ、長くやってきたからってわけさ」


「マルガさん……」


「で、あんたたち。旅の途中で、こんな辺鄙なとこまで来たんだろう? ……どんな旅路だったんだい?」


ルアンが、スプーンを置いて静かに答えた。


「僕たちは……もともと、アナグナ出身なんですが…」


アナグナの小さな村で過ごした日々。ルキエルと出会ったこと。ダリオとの戦いや、ミレアとの戦いでの和解、リリアナ姫とノインとの出会い、そしてこの宿への道のり……。


話すうちに、食堂の温かさが胸にも沁みてくる気がした。


マルガはしばし黙って聞いていたが、ふっと穏やかに笑った。


「なるほどねぇ。……あの姫様、リリアナ嬢には私も世話になってるよ。昔からここの宿にちょくちょく顔を出してくれてね。まあ……“病弱で隔離”なんてのは、王族の体裁ってやつでさ、本当はあの子、ずっと外に出たがってた」


「……あ、そういえば……そんなこと言ってました。『退屈すぎて脱走した』って……」


「んー、そうさね」


マルガが頷き、少しだけ表情を引き締める。


「あんたらも分かるだろ? エルディア国がどんな所か。……完璧主義、優秀でない者は“不要”と切り捨てられる国さ。生まれも、能力も、血統も――何もかも評価されて、“枠から外れたら終わり”ってな」


ミレアがスープのスプーンを止める。

ルアンも黙ったまま、言葉を飲み込んだ。


「でもね、あの姫様とノインって子は、あの国の中じゃ、ちょっと“異端”なのさ。リリアナ嬢はどこまでも自分らしくて、周囲の言葉なんか気にしないし、ノインは……あの国に生まれても、力のない人を見下したりしない。根っから、優しい男だよ」


「……ノインさん……」


ルアンの表情がわずかに明るくなる。


だが、マルガはそこに重く、静かに言葉を重ねた。


「……でもね。あんたたちには“酷”な話をするよ」


ルアンとミレアが、顔を上げる。


「旅を続けるってことは……いつか、ノインとも戦う時が来るんだろう?」


重たい沈黙が、食卓を覆った。


「……リリアナ嬢もノインも、悪い子じゃない。でも、“セントラクト”ってのは、エピルーク持ちである以上、いずれどこかで誰かとぶつかる。どれだけ仲良くしたって、それが神選びってやつさ」


ルアンの手が、無意識に拳を握っていた。

ミレアも、唇を噛みしめていた。


その時だった。


「……ねえ、なに悩んでるの?」


不意に冷たい声が落ちた。

ルキエルだった。壁に寄りかかりながら、腕を組んでこちらを見下ろしている。


「戦うことが前提なのに、今さら何を考える必要があるの?」


その言葉は、まるで刺すように冷徹だった。


「君はもう、道を選んだんでしょ? 願いを叶えるために戦うって。だったら、友達だろうと、恩人だろうと……最後には勝つしかないじゃないか」


ルアンは、息を呑んだ。


ルキエルの瞳は冷たく、どこまでも静かだった。


「君が“選ばれし者”として歩くなら、それくらいの覚悟、持ってて当然だよ」


ぱちり、とまた焚き火が弾ける音が、誰の返事もない空間に響いた。


マルガは黙ってルキエルの言葉を聞いていたが――やがてふっと小さく、低く呟いた。


「……そういうところが、“神様の冷たさ”ってやつかね」


誰も笑わないまま、食卓に静寂が戻る。


そしてその夜、ルアンは目の前のスープを見つめながら、ひとつの問いを胸に残したまま、口をつぐんだ。


「――覚悟って、どうすればいいんだろう……」


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