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創世のルキエル  作者: ウルハ
小話
30/57

旅人宿

「……ミレア、ノインさんってかっこよかったよね」


「ふふ……うん、ああいう人が本物の騎士って感じ、ちょっと見とれちゃった」


夕暮れの森を歩く三人。ルアンとミレアはすっかり打ち解けていた。けれど、その後ろでぴくっと眉を吊り上げたのが、ルキエルだった。


「……ふんっ。ルアン、ボクという最強のエピルークがいるのに浮気とはいい度胸だね」


「え、浮気ってそんな……」


「そうだよルキエル、ただの感想でしょ」


「ボクのルアンなのに……ふんっ……」


膨れっ面のルキエルに、ミレアとルアンが同時に苦笑いを浮かべた。


その時、ミレアが手で額をぬぐって言う。


「……はあ、喉乾いた……もうすぐ干からびそう」


「ねぇ……水、もう一滴も残ってないんだけど……」


ミレアがぐったりとした声で呟いた。肩を落とし、足取りもふらふらだ。


「僕も……そろそろ空気を飲み始めそう……」


ルアンも同じく、限界寸前といった様子だった。


「まったく……あの姫、“この先すぐ”とか言ってたけど、どう考えても感覚ズレてるでしょ……?」


ルキエルが不満げに木の根を蹴る。


「“ちょっと先”って……絶対、エルディアの王族基準の“ちょっと”だったよね……」


そう文句を言いながらも、三人はなんとか歩を進めていた。


「……あっ、あそこ!」


ルアンが指差した森の先に建物の影が見えた。


「……やっと……あった……」


ようやく辿り着いた、リリアナが言っていたエルディアの外にある、宿泊屋だ。


「みて!看板にまだ空室ありって書いてあるわ!」


「本当だ!急ごう!」


そう言い

中に入ると、そこは広々としたロビー兼レストラン。木製のテーブルには旅人たちが思い思いに座り、談笑している……が、ルアンたちが足を踏み入れた瞬間、ざわ……っと空気が変わった。


「あれ、あの子……エピルーク連れてる?」

「汚い身なり……アナグナの奴か…?」

「え、セントラクト? あんな小汚い子が? 嘘でしょ」


冷たい視線と、低いざわめきが飛び交う。


ルアンとミレアが気まずそうに受付に向かうと、カウンターの男が面倒くさそうに顔をしかめた。


「ああ? お前ら……アナグナの奴らか。悪いな、今夜は満員だ」


「え……?」


「でも、まだ空いてる部屋あるって看板に書いて…」


「ねぇんだよ、もう埋まった。帰りな」


冷たくあしらわれ、周囲の旅人たちがくすくすと笑い始めた、その時――


「おいあんた、またやってんのかい!」


「いっ……!?」


奥の厨房から、がっしりとした体格の女性がドスドスと歩いてくる。年の頃は四十代、腕っぷしも強そうで、エプロンをつけている。


その女将が、遠慮なく受付の男の頭を「ゴツン」と殴った。


「痛っ!? な、なんすか女将……!」


「ここはエルディアの外。アナグナ出身とか関係ないの。なに勝手に閉め出そうとしてんのさ!」


「……そこのあんたら、旅をしてるんだね?」


カウンター越しに腕を組みながら、女将がふいに声をかけてくる。


「なにか目的があるんだろう? 旅をする理由ってやつさ聞かせてくれ」


ルアンは少し驚いたように目を瞬かせ、それから胸に手を当てて、ゆっくりと口を開いた。


「ぼ、ボクは……元々、村で一番弱かったんです。何をやっても人より劣ってて……」


言葉を絞り出すように、続ける。


「だから……強くなりたくて。エピルークのルキエルと契約して、旅に出ることにしました」


「そっちのお嬢さんは?」


女将が、優しくも鋭い眼差しをミレアへと向ける。


少し戸惑ったように、ミレアは視線を伏せた。けれど、すぐに静かに顔を上げて答える。


「……私にも、エピルークがいたんです。ロギっていう、小さくて……少しおバカだけど、優しい子でした」


一瞬、胸の奥がきゅっと締めつけられたような痛みに顔を歪める。

けれど、ミレアは続けた。


「でも……彼と戦って、負けて……もう、いなくなりました」


場が一瞬だけ静まり返る


焚き火のパチパチという音だけが、やけに耳に残る中で、

ミレアは、微笑んだ。ほんの少しだけ、涙がにじんでいた。


「でも……いまは、ひとりじゃないんです」


そう言って、ルアンの方をちらりと見る。


「ロギはいなくなったけど、私は、彼と一緒に旅をしている。

だから、きっと大丈夫。……もう、“ひとりぼっち”じゃないから」


その言葉は、寂しさを滲ませながらも、確かに前を向いていた。


――だが。


「ぷっ……なにそれ」


不意に、奥のテーブルから吹き出すような声が聞こえた。


「底辺同士で戦って負けても、くっついて旅してんのかよ。マジかよ、うける」


「そんな弱いもん同士が、仲良しこよしで旅とか……子供のおままごとか?」


「いなくなったエピルークが恋しいです? あーはいはい、感動したー」


クスクスと笑い声が広がっていく。さっきまでの静けさは嘘のように、宿全体が嘲りの渦に包まれた。


ルアンは歯を食いしばる。ミレアは、何も言わず唇を噛み締めていた。


――その瞬間だった。


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