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創世のルキエル  作者: ウルハ
第1章~始まり~
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「“選ばれし者”の隣に立つもの」

朝になった。


アナグラの空は、いつもどおり分厚い雲に覆われ、石畳の道には昨夜の雨がまだ残っていた。じっとりと湿った空気が肌を冷やす。


そんな中、ルアンはいつものように広場へ向かっていた。


荷運びの仕事。稼げる額は少ないけれど、それでもやらなきゃ、生きていけない。


――ただ、今日のルアンには決定的な“違い”があった。


彼の隣を歩くのは、白く透けるような髪、浮世離れした雰囲気をまとった存在。まるでこの世のものとは思えない、静謐な気配を纏った少年――ルキエル。


誰が見てもただの人間ではない、“神の子”そのものだった。


そして、当然ながら周囲は騒然としていた。


「……見間違いじゃないよな?」「あれ、エピルーク様……だよね……?」「なんで、あんなガキの隣に……?」


広場に広がるざわめき。遠巻きに注がれる無数の視線。


人々は、明らかにルアンを見る目を変えていた。


――それは尊敬でも羨望でもない。驚きと、不安と、違和感の入り混じった複雑な視線だった。


ルアンはうつむき気味に歩きながら、ぽつりと呟く。


「……やっぱり、目立つよね……」


「うん、かなり」


ルキエルは悪びれる様子もなく、あっけらかんと答えた。


「……黙って歩けないの……?」


「別に黙る理由もないし。君の世界に降りるとき、“誰にでも見える姿”にしただけだよ。ぼくたちって、神の使いみたいな存在でしょ?」


その軽すぎる言い回しに、ルアンはため息をつく。


けれど次の瞬間、ルキエルがぽつりと呟いた。


「この町の人間たち……ぼくを見るたびに、いや〜な目をするよね。

エピルークって、この国では嫌われてたりするのかい?

それとも、あまりにも珍しすぎて、どう反応すればいいのか分かんないって顔?」


ルアンは首を横に振った。


「ううん、そうじゃないよ。この町には――もう一人、セントラクトがいるんだ」


「……セントラクト?」


ルアンは小さく頷く。


「エピルークと契約した人のこと。この世界では、そう呼ばれてるんだ。**セントラクト(感情の契約者)**って」


「なるほど。感情を糧にするぼくらに、ぴったりな呼び名だね」


ルキエルはふっと微笑む。


「しかも、そのセントラクトが、よりによって“あいつ”だから……そりゃ、ぼくなんかが選ばれたなんて、誰も信じられないよね……」


その言葉の後、ふたりの間に、ほんの短い沈黙が流れる。


やがてルアンが、ぽつりと口を開いた。


「……ねえ、ルキエル。その……“戦う”って、結局どういうことなの?

契約とか、願いとか……君が言ってたこと、正直まだ……よくわかってなくて」


ルキエルは足を止め、ふと空を見上げた。


「そういえばさ。君たち人間の間では――ぼくたちエピルークって、どういうふうに伝わってるのかな?」


ルアンは、記憶をたどるように言葉を紡ぐ。


「……“神の子”って呼ばれてて……契約すれば願いが叶うとか。

選ばれし者にしか契約できないとか、戦いに勝てば世界を救える……みたいな、そんな感じ……」


ルキエルは、くすりと笑った。


「ふふっ、だいたい合ってるね。ぼくも噂ぐらいは聞いてるよ。“神の意志を継ぐ者”とか、“英雄を導く存在”とか、“救世主の印”とかさ」


「……あ、やっぱりそうなんだ……」


ルアンが、少しだけ安堵したように呟く。


けれど、次の言葉は、そんな安心を吹き飛ばした。


「まあ――あながち間違ってはないけどね。でも、ルアン。ぼくたちエピルークは、“願いを叶える存在”なんかじゃないよ」


「……え……?」


ルキエルはまた歩き出しながら、静かに続けた。


「人間って、とっても複雑な生き物でしょ。いろんな感情を持ってる。愛とか、怒りとか、嫉妬とか……」


「……うん……」


「で、それが強くなったとき。ぼくらは、それを“感じて”、取り込むことができる」


「……それって、どういう……?」


「つまり――君がこれから出会う他のセントラクトたちも、それぞれの感情を抱えて戦っていくってこと。

そしてぼくらエピルークは、その感情を“受け取る”ために契約してるんだ」


「……じゃあ、ぼくは……」


ルキエルは微笑みながら、静かに頷いた。


「そう。君には、いろんなエピルークと、その契約者たちに出会ってもらう必要がある。

そして――戦ってもらうことになるよ」


ルアンの足が、ぴたりと止まった。


冷たい空気が、靴の隙間からじわじわと這い上がってくる。


「……戦って……感情を……“取らせる”ってこと……?」


ルキエルは、まるで悪戯っ子のように首を傾げて、あどけない笑顔を浮かべた。


「そうだね。そうやって“勝ち残って”いけば、君の“強くなりたい”って願いも叶うし――世界も、きっと平和になるよ?」


「……!」


ルアンは、言葉を失った。


それが“希望”に聞こえたのか――それとも、ただの皮肉に聞こえたのか。


自分でも、わからなかった。


――そのときだった。


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