ネックレスとルアン
夕方、森の中の簡素な野営地。
焚き火の燃え残りがパチリと音を立てた頃、ルアンはふと、自分の首元に手を添えていた。
その指先が触れたのは、少しくすんだ銀のネックレス。
「……それ、ずっとつけてるよね」
ミレアが、ぽつりと呟く。
「うん。グラズ……僕の育ての親からもらったんだ。僕を拾った時近くに落ちてたって……言ってたから」
ルアンはそっと、ネックレスを外して手のひらにのせる。
小さな円形のペンダント。中心には、かすかに見える紋章のようなもの。
けれど、その模様はほとんど潰れていて、判別は難しい。
「よく見ると、紋章みたいな彫りがあるんだけど……古いせいか、あるいはグラズの保管が悪かったのか……」
ミレアが身を乗り出して覗き込む。
「……捨てられた時側にあったのをグラズさんがずっと持ってたんでしょ?」
「うん」
「だったら……もしかして、ルアンって……どこかの国の王族の子だったりして」
ルアンが驚いた顔をする。
「えっ、僕が……王族?」
「だって、それっぽいじゃない。紋章つきのネックレスが側に落ちてたなんて、アナグナじゃ普通じゃないわよ」
「うーん……そんなの、考えたこともなかったな……」
ルアンが苦笑するその傍で、ミレアは火を見つめたまま、小さく吐息をついた。
「……ロギがいたら、変な妄想って茶化してくれたかもね」
それは冗談のようでいて、どこか寂しげな響きを含んでいた。
焚き火の赤が、ミレアの頬を淡く照らしている。
その瞳には、やっぱりどこか「ぽっかり空いたもの」が滲んでいた。
その静寂を破ったのは――ルキエルの声。
「……妄想も何も。くだらない」
木の影に背を預けていた彼が、冷ややかな目で2人を見ていた。
「そんな古びた飾りに意味があるって、よく信じられるよね。滑稽だよ」
「ルキエル……」
「それとも、ルアンは“自分が特別な存在かもしれない”って思いたいわけ?」
その皮肉混じりの言葉に、ルアンは何も返さなかった。
ただ、ミレアが静かに呟く。
「……冷たい言い方ね」
「感情を吸った結果だよ。嫉妬も傲慢も、僕の中にある。……でも、君たちの“幻想”を見てると、胸がざわつくのは確かだ」
それだけ言って、ルキエルは視線を外す。
再び、静寂。
けれど、どこかそれすらも心地よく感じられるのは、三人の間に「旅の匂い」が根付いた証かもしれなかった。




