夕食のご馳走
「……そろそろ今日はこの辺で野宿にしようか」
夕暮れが森を茜色に染める中、ルアンはふと立ち止まって、荷物を降ろした。
木漏れ日がちらちらと差し込む草地。足元は柔らかく、焚き火の跡も作りやすい場所だった。
「ふあぁ……だいぶ歩いたね……ミレア、大丈夫?」
「慣れてるから、問題ないよ」
そう言いながら、ミレアは既に落ちていた枯れ枝や石を手早く集めていた。簡易かまどを組み上げ、数分も経たぬうちに火が灯る。
そして、彼女の背負っていた小さな布袋から取り出されたのは、山菜、香草、そして……うさぎ?
「えっ、それいつ……!?」
「……さっき…仕留めたの」
ミレアは照れくさそうに言いながら、うさぎを丁寧に下処理し、香草とともに火にかける。どこで覚えたのか、動作に無駄がなく、まるで小さな料理人のようだった。
やがて、こんがりと焼けた肉の香りが辺りを包む。
「……な、なにこれ、めちゃくちゃいい匂い……」
スープもできあがり、葉の皿に並べられた即席のご馳走。
ルアンが一口頬張った瞬間――
「……なにこれっ!? すっごく……おいしい!!」
目を丸くして、次の一口を急ぐルアン。その様子に、ミレアは少しだけ口元を緩めた。
「……そう。よかった」
その声は小さかったが、どこか嬉しそうだった。
そのとき、木の上からルキエルがぴょん、と降りてきた。
「ふーん、これが“人間の食べ物”ってやつか。へえ、美味しいじゃん……」
スープをすするルキエルだったが、視線はミレアとルアンのやりとりに向いたまま。
「……でも、あんまり調子に乗らないでよね。ルアンはボクのだから。誰にもあげないからね、ふんっ」
その顔は、どう見ても拗ねた子供。……いや、傲慢な王様か。
「あれ、それってもしかして……“嫉妬”?」
「してない! ……してないったらしてない! ただの……所有権の主張ってやつ! ボクはボクのものを守ってるだけだもん!」
あきらかに動揺しているルキエルを見て、ルアンは苦笑。
ミレアも、それを見て、ふっと笑ってしまった。
「な、なに笑ってんの!?」
「んふふ……なんか、弟が2人もできたみたいで」
「弟っ!? ボクが!? 失礼な!!」
ルアンは苦笑いしながら、後頭部をかいた。
「まいったな……僕、もう十四歳なのに……ミレアよりも年下に見られたかぁ……」
「…?…なに言ってるの? 私の方が年上よ?」
「えっ!? そうなの!? 一個上とか?」
ミレアは少し得意げに、ほんのり微笑む。
「十八。もう成人してるよ?」
「…………えっ、マジで!?」
ルアンが素で驚いて目を丸くする。
「絶対、僕より年下かと思ってた……」
「ふふ、見た目は小さいからね」
そんな二人の会話を隣でルキエルがひとりモソモソと食べながら、ふんっと顔をそらしていた。
(僕は君たちよりうんっ億年年上だけどね)
そんなことを思いながら—————
そんな他愛ない会話が、夕暮れの森に響く。
空はやがて群青に染まり、焚き火が三人の影を揺らす。




