『嫉妬の先にあったもの』
森の霧が晴れていく中で、ルアンは静かに立ち上がった。
その隣では、ミレアが小さくうずくまるようにして座っていた。彼女の肩には、もうロギの姿はない。それでもその背中は、どこか少しだけ軽くなったようにも見えた。
ルアンは、ふと優しく微笑む。
「ねえ、ミレア。これから僕たち、旅に出るつもりなんだ。一緒に……行かない?」
その言葉に、ミレアが驚いたように顔を上げた。
「……私?」
「うん。一緒に見ようよ、この先の世界をさ」
そう言ったルアンの顔が、あまりにもまっすぐで。ミレアは視線を逸らし、胸元をぎゅっと押さえた。
「……気持ちは、嬉しいけど……。私、もう力……ないんだよ。ロギがいなくなったから……まともに魔法も使えない。毒のオーラも、もう……」
そうつぶやく彼女の表情は、どこか申し訳なさそうだった。
そのとき――
「……ふぅん。なんで君ばっかり優しくしてんの?」
横で聞いていたルキエルが、むすーっとした顔で腕を組んでいた。
「えっ?」
ルアンが思わずルキエルを振り返る。
「まったく……ボクの契約者なのに。昨日までボクに『一緒に旅しよう』って言ってたくせに……」
頬をぷくっと膨らませるルキエル。
「……なんか……モヤモヤする……。ああ、これが“嫉妬”ってやつ? やだな、これ……ムスー……」
珍しく情緒のある顔をするルキエルに、ルアンが少しだけ笑った。
「……ごめんごめん。でも、ルキエルも大事だよ」
「ふんっ。知ってるよ」
小さく背を向けながら、ルキエルが口を尖らせる。
そんなやりとりを見て、ミレアがぽつりとつぶやいた。
「……あのさ。だったらさ、エルフェリア国まで……連れてってくれない?」
ルアンの目が丸くなる。
「エルフェリア?」
「うん……そこ、ずっと行ってみたかった場所。……旅の途中で、そこまでなら……いいよ。一緒に行ってあげる」
少し拗ねたように言いながらも、その声にはどこか期待の色が混ざっていた。
「……よしっ、決まりだね!」
ルアンは力強く頷き、ミレアに手を差し出す。
ミレアは、一瞬迷ったあと、そっとその手を握った。
「じゃあ……よろしくね、ルアン。……ルキエルも」
「うん!よろしく、ミレア!」
「……ま、許してあげるよ。特別にね。ボクのルアンを“ちょっとだけ”貸してあげる」
と、ルキエルがいつもの調子で言いながら、くるっと身を翻した。
朝の光が差し込む境界線の森。
こうして三人の旅は、新たな一歩を踏み出すことになった――。




