『“嫉妬”を超えて』
ぽろりと零れた、一粒の涙。
ミレアは、自分でも気づいていなかったように、はっとした表情を浮かべた。
「……なんで……」
震える声。肩がかすかに揺れている。
「なんで……君なんかの言葉で、私……」
指先が、じりじりと土を掻いた。膝をついたまま、ミレアは前を見据える。
「ずるいよ……君ばっかり……!」
その声には、さっきまでの怒りや嫉妬とは異なる、もっと素直で、もっと脆い感情がにじんでいた。
「私……ほんとは、ずっと……」
「……気づいてほしかったんだよね」
ルアンが、静かに言葉を重ねる。
ミレアの目が揺れる。
ロギがそっとミレアの背中に身を寄せ、小さく囁いた。
「オイラ、ミレアのそういうとこ……ずっと見てたよ。
だからさ、もう……伝えていいんじゃない?」
「……うるさい……ロギは……」
呟きながらも、ミレアの肩から力が抜けていく。
もう怒ることもできず、ただ感情が崩れ落ちるのを止められなかった。
「……もう……やだよ……」
ぽつりと、彼女はつぶやいた。
「独りは……やっぱり……さみしいよ……」
ルアンは、そっと歩み寄り、やさしく手を差し出す。
「だったら、僕と友達になろう」
その手は、小さく震えていた。
けれど、そこにこもった温もりだけは、本物だった。
ミレアは、うつむいたままその手を見つめて――
そして、ほんの少しだけ、その指先がルアンの手に触れた。
その瞬間。
ルキエルが、静かに手を掲げる。
「……ありがとう。いただくよ」
ふわり、とミレアの胸元から黒紫の欠片の粒が浮かび上がる。
黒紫に濁った、けれど美しく揺れる“感情”。
「“嫉妬”……君の中で、もっとも濃かった感情だ」
それは、ゆっくりとルキエルの中へ吸い込まれていく。
「……ごちそうさま」
感情が吸収されたその瞬間、ミレアの身体がぐらりと傾ぐ。
ロギがすぐに肩を支え、心配そうに叫んだ。
「ミレアっ!? だ、大丈夫か!? なんか変な感じしないか!?」
ミレアは目を閉じ、小さく、けれど確かに頷いた。
「……すごく変。けど、少しだけ……軽くなった気がする……」
ロギは、ふにゃっと安堵の笑顔を浮かべる。
「そっか、なら……オイラも、安心だな……」
そしてロギは、ルアンとルキエルを振り返ると、満面の笑みで叫んだ。
「お前ら、ミレアのこと……よろしくな!!」
きししっと笑って、ロギの身体が光に包まれていく。
「……ロギ……?」
ミレアが呟いた瞬間、ロギの姿は霧の中に溶けるように消えていった。
残されたのは、静寂と、あたたかい余韻だけだった。
ミレアは、震える肩を抱えながら、ロギが消えていった場所をじっと見つめていた。
ルアンはその隣にそっと座り、何も言わずに見守る。
ルキエルが、いつものように静かに笑った。
「うん。ようやく……届いたみたいだね」
そしてルアンは、そっとミレアに声をかけた。
「僕も……これからは、君のことちゃんと見てる。ロギとの約束でもあるしね。
……友達になろう、ミレア」
ミレアは一瞬だけ驚いたような顔をして――
そして、恥ずかしそうに目をそらしながら、小さく頷いた。
朝の光が差し込み、森の霧が少しずつ晴れていく。
嫉妬に囚われていた少女の心に、小さな“繋がり”の灯がともった。




