『毒の叫び、星の返事』
毒と星の衝突が、一瞬、森の空気を張りつめさせた。
ルアンの拳が霧を切り裂いた直後、ミレアの声が森中に響き渡った。
「私の……何がわかるっていうのよッ!!」
彼女の叫びと共に、黒紫のオーラが一層激しく燃え上がる。怒りと嫉妬が入り混じったその波動は、ロギの体を伝って鋭く尖っていく。
「君なんかに……!君なんかに、私の気持ちがわかるもんかッ!!」
ミレアの手から再び毒の触手が放たれ、地を這うようにルアンへ伸びてくる。
だがルアンは、それを避けることも防ぐこともせず、ただ真正面から叫び返した。
「分かるよ!! ……全部じゃないけど、でも……わかるよ、ミレア!!」
ルアンの声が震えていた。
「君がどれだけ苦しくて、どれだけ寂しくて、どれだけ……誰かに気づいてほしかったか! 僕、知ってたよ……ずっと、気づいてた!」
毒のオーラが一瞬揺らぐ。
「でも、僕は……怖かったんだ! 僕自身のことで精一杯で……!
だから、見て見ぬふりをした。知ってたのに……君がそこにいるって……ちゃんと知ってたのに……っ!」
拳がぎゅっと握られる。
「僕は、弱いんだ……!優しくなんてない。君のことを、見て見ぬふりをしてきた僕が、君に“寄り添う”なんて、おこがましいのかもしれない……」
それでも、ルアンは一歩前に出る。
「でも今は、逃げたくないんだ。君の叫びからも、過去の自分からも……!」
オーラの風圧が吹き荒れる中で、ルアンの目は、真っすぐミレアを見ていた。
「僕は君を“哀れんで”るんじゃない。ただ……今、君の隣に立ちたいって思っただけなんだ……!」
ミレアの攻撃は止まっていない。だが、その瞳に宿った光が、わずかに揺れる。
「……っ、うるさいっ……!」
彼女の声は震えていた。怒りに、嫉妬に、言葉にならない感情が混ざり合っていた。
「ミレアはずっと独りだったんだ!」
ロギの叫びが響く。小さな体がミレアにしがみつきながら、ルアンに怒りをぶつける。
「お前のせいで、またミレアがひとりになっちゃうよ!! そんなのオイラ、絶対イヤだよッ!!」
「……ロギ……」
ミレアの視線が、少しだけ伏せられる。
そのとき、ルキエルがすっと前に出て、静かに言った。
「ルアン、決めるのは君だよ。感情をぶつけ合うだけが戦いじゃない。君の“願い”が、彼女に届くなら……」
ルアンはうなずいた。拳に再び、淡い光が宿る。
「だったら……僕が友達になる。君を、独りになんかさせない」
波紋のように広がる星の光が、黒紫の霧を切り裂き、森の空気をほんの少しだけ澄ませていく。
ミレアの身体がよろけ、ひざをついた。
毒の瘴気も弱まり、ロギが心配そうにその肩に寄り添う。
「ミレア……もう、がんばりすぎだよ。オイラ、オイラ…!」
その声に、ミレアの瞳がわずかに揺れる。
「……うるさいな、ロギ……。でも……ロギを失う訳には…」
ぽろり、と落ちたのは血ではなく、一粒の涙だった。




