『逃げない理由(わけ)』
2人の戦いは、ますます激しさを増していた――。
一瞬の静寂のあと、ミレアはよろめきながらも立ち上がる。
その身体を、小さなロギが必死に支えていた。
「ミレア、もうムリしないでよ……! これ以上やったら、ほんとに倒れちゃうかも……!」
「だめ……ロギ……。まだ、まだよ!!!……。
私の中の、嫉妬も、憎しみも……これが“私”なんだよ……!」
足元から立ち上る黒紫のオーラ。
それは大地を這い、森の草木を瞬く間に枯らしていく。
「《Toxic Veil》……!」
瘴気を帯びた霧が地面から噴き上がり、ルアンの足元を絡め取った。
「くっ……!」
喉が焼けるように痛む。目も開けていられない。
この霧、ただの毒じゃない……感情そのものがぶつかってきている。まるで彼女の叫びのように。
「彼女……なんかすごく理不尽なことで君に嫉妬してるみたいだね。何かした覚え、ある?」
背後で、ルキエルの問いが静かに響く。
ルアンは気まずそうに顔をゆがめ、拳を握った。
(……知ってた。彼女がそこにいたのは……毎日、あの場所にいたのを)
思い出す。自分の視界の端で、じっとこちらを見ていた彼女のことを。
(でも、見ないフリをしてた。……
自分の事で精一杯で…いや……ただ、怖かったんだ。
声をかけて、何も返ってこなかったら……自分まで、いなくなる気がして)
霧の中で、ルアンの心にずっとこびりついていた後悔が顔を出す。
(あのとき……たった一言、話しかけていれば。君は、こんなふうにはならなかったのかもしれない)
「ミレア……っ!」
その声に、ミレアの表情が一瞬だけ揺れた。
「……なんなのよその顔……。
同情? 哀れみ? 優しさ? そんなの、今さら欲しくなんかない……!」
「違う……!」
ルアンの叫びが、霧を震わせる。
「違うよ……僕は、君とちゃんと向き合いたいんだ!」
その言葉に呼応するように、ルアンの拳に淡い光が宿る。
「Radiant……」
霧の中に、星の輪郭が浮かび上がる。
「Star……!」
「ルアン、落ち着いて」
ルキエルの静かな声。
けれど、それは迷いを断ち切るような力を持っていた。
「ふーん。なんかよくわからないけど…君のその感情――届くと思うよ。だって君は、
今ちゃんと“見てる”から。
彼女のことも、自分のことも」
視線がぶれずに定まる。
ルアンが見据えた先には、感情の奔流をぶつける少女――ミレア。
「……僕は、君の痛みに気づいてたのに…
けど、今は違う。今は、ちゃんと見てる。
君の苦しさも、孤独も、全部」
星が、拳に集まる。
「Radiant Star Palm!」
放たれたその一撃が、毒の霧を真っ向から打ち破った。
空間を裂き、一瞬の静寂が訪れる。
晴れた霧の中、ルアンとミレアの視線が交差する。
「だから……僕は逃げない。
過去からも、君からも……もう目を背けたりしない!」
星と毒がぶつかり合う。
それはただの技の衝突ではなかった。
お互いの過去と、心の奥底にある感情が、真正面から向き合った瞬間だった――。




